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四、五年して、NHKのTVで「『減反』是か非か」という番組の取材があり、小田川さん一人が減反反対を主張する場面がめった。そして「身体の悪い方に無料で差し上げます」と呼びかけたそうだ。すると、その番組が終わらないうちから、全国から申し込みが殺到した。それがひとつのきっかけになった。
「それまで私も『自分のお米は良い米だから買ってください』と人に会うたびに口に出てしまう。必死だったけど、それは邪道なんですネ。相手に差し上げることの方が先なんですネ」
小田川さんのお米も、最初は家庭用の精米機を使っていたので、小米や小石の入っているようなお米だった。いくら無農薬のお米だからといって、お客は市販しているお米と比較する。食味にはそれなりの自信はあったが、貯蔵中の食味低下にも配慮する必要がめった。そして、貯蔵設備と本格的な精米プラントの導入を考えた。
小田川さんの貯蔵・精米設備は、娃物、機械設備合わせて約三二〇〇万円を要した。写真の三〇〇〇俵貯蔵の貯蔵庫と精米設備を兼ねた娃物は、タンク本体を含めてすべて青森ヒバ材を使用している。ロート状のホッパなどの強度を確保するために、その建設には五重の塔を建てる宮大工の経験と技術が必要だった。五〇坪の家一六軒分という材料の調達と大工さんを探すのに、計画から八年かかった。平成元年に建てたというが建物の中はヒバのよい匂いがする。ヒバの材質は虫避けになるだけでなく、調湿の効果があり、大型のライスセンターなどで問題になる結露による米の品質劣化がない。しかも、貯留槽は二重の構造になっており、その間にカクハン石という石が詰まっており、それが発する遠赤外線がお米の品質を守るのだという。
大変な投資である。
「百年かけて償却すれば良いくらいに考えてもいい。もちろんお客様にも説明してご負担はいただいています」
という。
小田川さんは、仕事の成果が次への意欲につながる利益は出ているという。そして、長男・景行さんの友人だもの新しい仲間づくりが進んでいるようだ。
小田川さんは、確信を持って食管法に抵触している。しかし、その農業と米販売の事業は「売れる商品を開発する」という論理でも「もっと儲けたい」という欲に発したものではない。ただ「農の本質を突き詰めたい」、むしろ「手前勝手な論理から離れよう」とした結果として、素晴らしい家族、人間関係、そして経営を作りあげ、さらに後継者にそれを受け継がせようとしている。そして、米の自由化が現実的になった今、どんな安い米が輸入されてもびくともしない経営ができてきている。小田川さんのこの農法と経営、そして人生から我々は何を学ぶのか。
小田川さんをお訪ねして、筆者は、日本の農業にとって、今年の稲作の結果とは何なのだろうか、と考えた。
かつて日本人のほとんどが、腹をすかし、自然の、そして人々の汗がもたらす恵みを有り難いと思っていた時代に。
「寒さの夏はおろおろ歩き」
と綴った誠実な農業指導者の宮潭賢治が生きていたとしたら、彼は今もノートに同じ言葉を書くのであろうか。そして、小田川さんを異端者として排斥するのであろうか。
「それまで私も『自分のお米は良い米だから買ってください』と人に会うたびに口に出てしまう。必死だったけど、それは邪道なんですネ。相手に差し上げることの方が先なんですネ」
小田川さんのお米も、最初は家庭用の精米機を使っていたので、小米や小石の入っているようなお米だった。いくら無農薬のお米だからといって、お客は市販しているお米と比較する。食味にはそれなりの自信はあったが、貯蔵中の食味低下にも配慮する必要がめった。そして、貯蔵設備と本格的な精米プラントの導入を考えた。
小田川さんの貯蔵・精米設備は、娃物、機械設備合わせて約三二〇〇万円を要した。写真の三〇〇〇俵貯蔵の貯蔵庫と精米設備を兼ねた娃物は、タンク本体を含めてすべて青森ヒバ材を使用している。ロート状のホッパなどの強度を確保するために、その建設には五重の塔を建てる宮大工の経験と技術が必要だった。五〇坪の家一六軒分という材料の調達と大工さんを探すのに、計画から八年かかった。平成元年に建てたというが建物の中はヒバのよい匂いがする。ヒバの材質は虫避けになるだけでなく、調湿の効果があり、大型のライスセンターなどで問題になる結露による米の品質劣化がない。しかも、貯留槽は二重の構造になっており、その間にカクハン石という石が詰まっており、それが発する遠赤外線がお米の品質を守るのだという。
大変な投資である。
「百年かけて償却すれば良いくらいに考えてもいい。もちろんお客様にも説明してご負担はいただいています」
という。
小田川さんは、仕事の成果が次への意欲につながる利益は出ているという。そして、長男・景行さんの友人だもの新しい仲間づくりが進んでいるようだ。
小田川さんは、確信を持って食管法に抵触している。しかし、その農業と米販売の事業は「売れる商品を開発する」という論理でも「もっと儲けたい」という欲に発したものではない。ただ「農の本質を突き詰めたい」、むしろ「手前勝手な論理から離れよう」とした結果として、素晴らしい家族、人間関係、そして経営を作りあげ、さらに後継者にそれを受け継がせようとしている。そして、米の自由化が現実的になった今、どんな安い米が輸入されてもびくともしない経営ができてきている。小田川さんのこの農法と経営、そして人生から我々は何を学ぶのか。
小田川さんをお訪ねして、筆者は、日本の農業にとって、今年の稲作の結果とは何なのだろうか、と考えた。
かつて日本人のほとんどが、腹をすかし、自然の、そして人々の汗がもたらす恵みを有り難いと思っていた時代に。
「寒さの夏はおろおろ歩き」
と綴った誠実な農業指導者の宮潭賢治が生きていたとしたら、彼は今もノートに同じ言葉を書くのであろうか。そして、小田川さんを異端者として排斥するのであろうか。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
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