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新・農業経営者ルポ

比内地鶏の歴史を創ってきた家族

昨年秋、食肉加工業者による比内地鶏の偽装事件が告発され、メディア各紙を巻き込んだ騒動に発展したことは記憶に新しい。秋田県は急遽、ブランド認証制度の準備を進めたが、それがさらなる混乱を招くことになった。育種改良の努力で市場の7割の顧客を獲得し、安全責任への自覚から、時代に相応しい管理方法を選んだ生産者が、認証制度の名のもとに市場から排除されようとしている。取材・文/昆吉則 撮影/土井学
メディア批判をかわす県の対応が呼んだ災難

 まだ産後20日目だというのに、大塚智子(31歳)は事務机の脇に赤子を寝かせて仕事をしていた。5歳と2歳の子供は、夫・大塚智哉(33歳)の栃木の実家に預けた。今、㈲秋田高原フードは創業以来の危機に瀕している。それでも、社長の佐藤信子(57歳)と智子、智哉の娘夫婦、そして14人の従業員たちは、この困難のなかで改めて家族の絆と会社の使命を確認している。

 災難は、比内地鶏を偽装した犯罪とその批判をかわすために秋田県がとった対応の結果によってもたらされた。同社は昨年度まで年間8万羽あった生産が半減しかねない危機に陥っている。その食味の高さで評価してくれる外食業者はともかく、スーパーやデパートなど多くの小売業は「認証」の有無を問題とし、取引を控えるようになり、それが取り扱いの減少につながっている。それでも信子ら家族は、智子の祖父である故・佐藤広一が始めた家業の誇りを守ろうとしている。

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