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市場の7割を排除する認証制度の「ねじれ制度」
少し長くなるが、ここに至る経緯を説明しておこう。事の発端は、昨年10月に告発された大館市の食肉加工製造会社、(株)比内鶏(藤原誠一社長)の偽装表示事件だった。採卵鶏の廃鶏などを原料とした燻製などを「比内地鶏」と偽って販売していた事件である。
この偽装表示事件をきっかけに、秋田県では「秋田県比内地鶏ブランド認証制度」を立ち上げることになった。そこで問題とされたのは「血統」と「飼育方法」である。
県が認証の対象とする「比内地鶏」あるいは「秋田比内地鶏」は、秋田県畜産試験場系統と、(有)黎明舎種鶏場系統の2系統の比内地鶏である。同時に飼育方法は「平飼い」または「放し飼い」のものに限るとされた。
秋田県は認証制度の到達点のひとつとして、2009年度までに流通しているすべての比内地鶏を、DNA識別が可能なものにしたいとしている。現段階でそれが可能なのは秋田県畜産試験場系統の鶏のみであり、黎明舎系統の鶏についてはDNA識別技術を確立していない。そのため秋田県は、黎明舎種鶏場へ畜産試験場の鶏を導入させ、系統の一本化を図ろうとしている。
もともと天然記念物である「比内鶏」には、複数の系統があった。
畜産試験場の比内地鶏は、比内鶏の雄とロード種の雌の一代交雑種であるとされている。
一方黎明舎では、原種の比内鶏に日本鶏を掛け合わせ、その後に原種との戻し交配を行なって、血統を固定化した種鶏を作出。その雄にロード種の雌を掛け合わせ、比内地鶏の雛を生産している。ちなみに日本鶏を掛け合わせたのは、比内鶏同士の近親交配を防ぎつつ、形質を改良するためだ。その後に戻し交配を行なうことで、良い形質を受け継ぎながら、比内鶏由来の血液百分率を高めることができるのである。
畜産試験場系統の比内地鶏は、DNA鑑定により間違いなく畜産試験場の比内鶏由来の血統を証明できるわけだが、その市場シェアは30%に過ぎない。すなわち、黎明舎の雛を使った比内地鶏が70%の圧倒的シェアを守ってきたということだ。黎明舎の雛が選ばれてきたのは、生産者だけでなくマーケットの評価があったからだろう。
さらに、飼育方法に関して秋田県は「放し飼い」または「平飼い」しているものに限り、ケージ飼い(かご飼い)は認証制度に組み込まないとしている。同県が行なってきた広報がそう表明してきたし、人々の持つイメージもそうだからだという。
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佐藤信子 サトウノブコ
(有)秋田高原フード
代表
秋田県大館市生まれ。秋田県北秋田市。地元の高校を卒業後、秋田市の歯科衛生士専門学校に進学し、歯科医療を学ぶ。卒業後5年ほど歯科衛生士の仕事に就いていたが、(有)黎明舎種鶏場の佐藤黎明との結婚を機に、養鶏の世界に入る。以来、現在まで30年あまりにわたって養鶏業の現場をつぶさに見つめてきた。1999年、黎明舎種鶏場の比内地鶏部門を前身として、(有)秋田高原フード設立。2002年に代表の黎明が他界後、自らが代表取締役に就任する。14名の従業員と共に比内地鶏の生産販売にあたっている。
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