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農業経営者ルポ

量が多ければ喜ばれる時代はもう終わった

  • 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
  • 第5回 1994年03月01日

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お客の生活感覚を理解せよ


 「他との比較のなかで自分の商品とは何か」を考えよと、兵藤さんはいうが、農家に限らず、自分を相対化すること、自分の作っているもの、あるいは己れ白身を突き放して見るということは、決して簡単なことではないような気がする。僕自身の体験を考えてみても、むしろ、自分の都合だけを見てしまう、あるいは自分を絶対化してしまいがちなものだ。失礼だが、農家にお目にかかっていても、そういう感じの方が少なくない。農村という狭い社会のなかで、他の情報をあまり受け止めてないから、それだけ自分の経験や産物の評価を絶対化しやすい、という傾向がある。だから値段の問題にしても、「これだけ苦労したのだから、この位は欲しい」とかいう発想にもなりかねない。少なくとも「商品」を開発し、マーケッティングを考えるというのならそれは論外だと思う。僕らの仕事もまたしかりだ。どれだけ苦労したとしても、相手に必要とされなければお客さんにとっての価値はゼロなのだから。そして、そういう態度に陥るということは、何よりも自分自身を弱くすることにつながるのではないか、と僕は思っている。

 兵藤さんは、それにこう答える。

 「本当にその通りだ。買う側にとっては、こちらの苦労なんてのは一切関係ないと思うべきです。そんなことに甘えちやいけないし、第一、今時、腹肥しのために栗食べる人なんていないでしょう。むしろ贅沢を売ろうとしているのに、克苦奮励、歯を喰いしばって作った栗だなんて、誰が喜びますか。楽しそうな顔して売らなきや誰も買ってくれませんヨ」

 「それよりも、自分が買ってもらいたい人々にとって、それだけの価値があるかを考えるべきなんです。もし自分が栗を作ってなかったら、この栗を買うか?そのためには、買ってもらいたいお客さんの生活感覚をきちんと理解しないと、それなりの値段では売れない」のだと。


商品に語らせよ!


 いざ、商品は作った。それをどう売ればよいのだろう。

 「実は商品というものは、すぐに爆発的に売れてしまっては、困るものなんです。始めたらすぐ売れないと我慢できないという人も駄目。すぐ売れる商品にはすぐ競争相手が出てくる。我われが売る程度の量の商品なら『面』で売れることは望まないこと。『点』としてお客が存在する商品には簡単には競争相手が出てこない。面でお客を捕まえる方法なら、これだけメディアが発達している時代、宣伝手段はたくさんある。でもね、うちの場合は口コミですよ。まず一人の良質なお客様に使ってもらえばそれで良いんです木村さんが山本さんに送ってくれただけでいいんです。山本さんが「うちでも使いたいワ、それなら長谷川さんに送ろうか」になるわけです。だから、それだけ商品に魅力がなかったら駄目だというわけです。どんな宣伝よりも商品自体に語らせることです。極端なこといえば、もの売りたかったら、人の欲しがるもの作れ。この一言で終わり」だと兵藤さんはいう。

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