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「感性」なきは商品にあらず
日本みたいな社会では、「商品」というのは、もうすでに、その「もの」に対してではなく、そのものがもつ「意味」に対して代価が払われているのではないだろうか。ところで人は。自動車やファッションや化粧品なんかについて、宣伝で商品としての「幻想性」を膨らまして高い値段を付けていると思いがちである。が、実は、農産物ほど放っておいても消費者が商品への「幻想=意味」を勝手に膨らましてくれるものはないのではないか。銘柄米や有機農産物の例を見るまでもない。考えようによっては、農産物ほどイメージで高く売れるものはない。
兵藤さんは、そのことを商品の「感性」なのだという。
「『感性』のない商品は売れないんです。『情報』のない商品は売れない、あるいは『こだわり』のない商品は売れないっていいますが、『商品の持っている背景』が見えないものは駄目でしょう。うちの栗の場合で言えば、お客様が箱を開けた瞬間が勝負なのだ」という。
まずは、箱のデザイン。パッケージが四万騎農園というイメージや中身にマッチしてるか。量目、これは多過ぎちゃ駄目。開けたときに「美しい」と思ってもらえること、作っている場所が見えるようなもの。もちろん食べてうまくなけりゃだめ。クール宅急使で送られてくる四万騎農園の栗の贈答箱の文字と絵は、ある高名な日本画家の手によるものだし、箱を開けると、桧の葉がまず目に入る。そのしおりも優雅。求めがあれば、栗の皮剥きハサミも同送する。さらに、栗菓子は、同じ日本画家の描いた上等な襖絵にでもなりそうな包装紙に包まれて届く。しかも憎いことに、紙の裏表を逆にして包装してある。その贈答品を受け取る人は、その中身の高級さばかりでなく、受け取ってから食べた後まで、何度も送り主の美意識を感じさせられる仕掛けになっているのだ。心憎いまでの贈答品商品企画である。実は、この記事を読まれるより、一度、兵藤さんの商品を頼んでみる方が、勉強になると思う。プロフィールの欄に連絡先を紹介しておいた。
そして、兵藤さんはいう。今は、マイナスはすぐプラスに転化できる時代なのだ。そう考えれば、農業こそ、やることが幾らでもあるバラ色の産業なのだ、と。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
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