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CEC数値が高くても吸着力が弱いというトリック
話は、再び保肥について。火山灰土で農業をしている人は多いと思うが、火山灰土のCECは高い。二五~四〇くらいある。その理由は、火山灰土特有の粘土鉱物アロフェン(第4回参照)にあり、また表層に多くの腐植を含むことが多いからである。
ところが、火山灰上はカリやアンモニアの保持力がきわめて弱い。この欠点は、カリ不足を嫌うイモ類の栽培やアンモニア態窒素を好むネギなどの栽培では、とくに留意しなければならない。その対策には、砂地と同様、天然ゼオライト(CEC一五〇以上)の施用が効果的だ。
CECは、上が保持できる肥料分の総量の尺度であり、単に、物質が静電気的に他の物質を引きつける力の強弱とは、おのずと違うことも、知っておいてほしい。例えば、腐植のCECは測定すると大きな数値が出るが、これは静電気的にはたいへん弱い力でしか吸着していない。したがって、黒ボク土壌の分析値を見るときには、とくに注意してほしい。
塩基交換
土のコロイドは肥料分を放出もする
施した肥料を上が吸着保持してしまうだけでは、作物は肥料を吸収できない。ところが、作物の吸収に応じて、土はうまい具合に吸着保持した肥料分を、順次放出しているのである。
土のコロイドから肥料分か放出されると、同じコロイドのマイナス面にすぐ他のプラスイオンが入ってきて、土は常に全体として電気的中性を保っている。この現象を「塩基交換」という。この現象も、上を考えるうえで大切なことである。
つまり、土には外からの変化に対して、常に安定を保つ働きがあるということである。作物の根は、土のこの働きによって、施肥や酸性雨などのさまざまな外的変化を受けても、一定の良好な状態を保つことができるのである。
このように、土のコロイドである粘土鉱物と腐植は、塩基(肥料分)の吸着・交換という土の化学的働きの中核をなしている。「土の主役」といわれるのも、この大事な働きによるのである。
ところが、農業の現場では、このことがあまり理解されていない。そのために、 CECを土壌分析項目の中に入れず、土に吸着されている石灰(Ca)、苦土(Mg)、カリ(K)、ナトリウム(Na)の四種類の塩基の数値のみを記しているようなことがまかり通っているのだ。これは、明らかに片手落ちである。
最後に、保肥力を改善する方向についてまとめておこう。
砂地や火山灰土などのハンディキャップを持っている土壌では、ゼオライトのような改良資材が販売されているので、それらを使うのはきわめて有効なことである。ところが、コスト面などを考えると、育苗など限られた面積の利用にはいいだろうが、広い露地栽培では問題があるのではないか。したがって、保肥力の低い圃場では、その作土を深く保つことで改良をはかる方が得策といえるだろう。
以上のように、土の正体、そして粘土鉱物や腐植など「土の主役」の働きを理解すれば、CECという一見難しく思える数値も決して難解なものではない。用語や数値の難しさに惑わされてはいけない。「土の化学」を自らのものにして、かつての錬金術師たちのような、たくましさを取り戻したいものである。
次回は、塩基交換や塩基のバランスについて、詳しく見ていこう。
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関祐二 セキユウジ
農業コンサルタント
1953年静岡県生まれ。東京農業大学において実践的な土壌学にふれる。75年より農業を営む。営農を続ける中、実際の農業の現場において土壌・肥料の知識がいかに不足しているかを知り、民間にも実践的な農業技術を伝播すべく、84年より土壌・肥料を中心とした農業コンサルタントを始める。 〒421-0411静岡県牧之原市坂口92 電話番号0548-29-0215
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