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【農業経営者ルポ】
「算盤でなく夢があるから経営は面白いのだ」
- 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
- 第6回 1994年06月01日
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僕らを迎えに新幹線の三河安城駅に現れた近藤牧雄さんはネクタイ姿だった。その旧は安城市のロータリークラブの例会日。近藤さんは農家ではただ一人の安城市ロータリークラブ会員なのだ。でも、近藤さんの車は窓が閉まらない。それも近藤さんらしさだろう。
「車に見栄張るようじゃいけんが。でも、いつかはクラウンの土地柄じゃけーの」
と高笑いしながら三万円のクラウンで案内されたのは、五〇〇〇万円のガラス温室。現在の近藤さんの経営は、この二六aの水耕ミッバハウスと稲麦作一〇haが二本の柱である。労働力は夫婦二人と稲麦に季節雇用一人とミツバに常時七~八人。暮れには臨時でパートを二〇人くらいを集めることもある。両親はニワトリの世話をする程度。
近藤さんは、スガノ農機(株)が募集する「有機物循環農法体験記」の第一回目の表彰者の一人である。そして、近藤さんが中心になって発足した表彰者たちの自主的研究集団「有機物循環農法研究会」の会長でもある。当社でその事務局を承っている関係から近藤さんとのお付き合いは四年程前からのものである。そんな付き合いのなかで感じてきた近藤さんの人柄は、剛胆で茶目っ気のある文字通り「骨太な農民」である。さらに、近藤さんは「経営者」であること、それも「農業経営者」たらんという強い自負を持つ人だと思う。そして、時代とともに変化していく地域の中で、およそ風貌には似合わぬ繊細さでもって、人と村と、そして自分自身を見つめている人だと僕は感じている。そんな近藤さんの経営者的感性の一端を紹介したい。
近藤農場の経営は、二六aの水耕ミツバ、一〇haの稲麦作と五haの作業受託、それに三〇〇羽のニワトリである。
二六aの水耕ミツバと一〇haの稲麦作が収益はほぼ同じだという。さらに近藤さんは、趣味の域を出ていないというニワトリの仕事を事業ベースに乗せることがとりあえずの現在のテーマ。
それ以外にも、単に新しい作目というのではなく、小さくとも農業という「場」にこだわった様々な事業の可能性に夢を描いている。それも異業種の人々や消費者をも巻き込んで小さくとも「面白がって」広げていける新しい農業ビジネスだ。単なる算盤勘定だけではなく、趣味でもボランティアでもなく、なりは小さくてももっと大きな経営者、事業者としての夢や面白味にかけてみようと考えているのだ。
単一作目の大規模化による経営の拡大ではなく、多角化による安定が近藤さんの基本的経営方針。よく語られる規模拡大という発想は、いかにも机上の経営論であると考えている。
作業請負を含め一五haの稲麦作といえば、すでにそこそこの規模と言うべきなのかもしれないが、近藤さんは現在の経営環境条件下でこれ以上拡大するつもりはないという。愛知県の安城市といえば、早くから作業や経営の受託がさまざまなかたちで定着しており、受託側にとっては、いわば売手市場の土地柄。さらに近藤さんには稲作部門での雇用労力もあり、もっと面積を増やすこともそう困難なことではない。また、労働時間当たりの単価でいえば、稲ほど歩留まりの良いものはない。それでも近藤さんは。
2つの部門が大きくなればなるほど、良いときは良くてもそれだけリスクも大きくなる。稲作だけで規模拡大するなんて、自分には恐ろしくてできない。むしろ安定した経営のために、稲麦、ハウスの他にニワトリをもう一つの柱に育てたい」という。
「車に見栄張るようじゃいけんが。でも、いつかはクラウンの土地柄じゃけーの」
と高笑いしながら三万円のクラウンで案内されたのは、五〇〇〇万円のガラス温室。現在の近藤さんの経営は、この二六aの水耕ミッバハウスと稲麦作一〇haが二本の柱である。労働力は夫婦二人と稲麦に季節雇用一人とミツバに常時七~八人。暮れには臨時でパートを二〇人くらいを集めることもある。両親はニワトリの世話をする程度。
近藤さんは、スガノ農機(株)が募集する「有機物循環農法体験記」の第一回目の表彰者の一人である。そして、近藤さんが中心になって発足した表彰者たちの自主的研究集団「有機物循環農法研究会」の会長でもある。当社でその事務局を承っている関係から近藤さんとのお付き合いは四年程前からのものである。そんな付き合いのなかで感じてきた近藤さんの人柄は、剛胆で茶目っ気のある文字通り「骨太な農民」である。さらに、近藤さんは「経営者」であること、それも「農業経営者」たらんという強い自負を持つ人だと思う。そして、時代とともに変化していく地域の中で、およそ風貌には似合わぬ繊細さでもって、人と村と、そして自分自身を見つめている人だと僕は感じている。そんな近藤さんの経営者的感性の一端を紹介したい。
「大規模化より多角化だ」
近藤農場の経営は、二六aの水耕ミツバ、一〇haの稲麦作と五haの作業受託、それに三〇〇羽のニワトリである。
二六aの水耕ミツバと一〇haの稲麦作が収益はほぼ同じだという。さらに近藤さんは、趣味の域を出ていないというニワトリの仕事を事業ベースに乗せることがとりあえずの現在のテーマ。
それ以外にも、単に新しい作目というのではなく、小さくとも農業という「場」にこだわった様々な事業の可能性に夢を描いている。それも異業種の人々や消費者をも巻き込んで小さくとも「面白がって」広げていける新しい農業ビジネスだ。単なる算盤勘定だけではなく、趣味でもボランティアでもなく、なりは小さくてももっと大きな経営者、事業者としての夢や面白味にかけてみようと考えているのだ。
単一作目の大規模化による経営の拡大ではなく、多角化による安定が近藤さんの基本的経営方針。よく語られる規模拡大という発想は、いかにも机上の経営論であると考えている。
作業請負を含め一五haの稲麦作といえば、すでにそこそこの規模と言うべきなのかもしれないが、近藤さんは現在の経営環境条件下でこれ以上拡大するつもりはないという。愛知県の安城市といえば、早くから作業や経営の受託がさまざまなかたちで定着しており、受託側にとっては、いわば売手市場の土地柄。さらに近藤さんには稲作部門での雇用労力もあり、もっと面積を増やすこともそう困難なことではない。また、労働時間当たりの単価でいえば、稲ほど歩留まりの良いものはない。それでも近藤さんは。
2つの部門が大きくなればなるほど、良いときは良くてもそれだけリスクも大きくなる。稲作だけで規模拡大するなんて、自分には恐ろしくてできない。むしろ安定した経営のために、稲麦、ハウスの他にニワトリをもう一つの柱に育てたい」という。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
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