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【耕すということ】
土層・土壌改良耕
- 農学博士 村井信仁
- 第6回 1994年06月01日
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減り続ける農地
平成五年度は冷湿害でコメ不足、さあどうなるかと思いしや輸入米の手当てで事なきを得ている。東北では種子不足も伝えられたが、沖縄県で栽培することで間に合っている。経済力があり、文明が発達するからこそである。一〇〇年前だったらどうであろうか。娘は売りに出されたであろうし、餓死する人も出たであろう。危ない綱渡りではあった。
「食満ちて礼節を知る」という言葉もあるが、食糧の安定供給が人心を安定させ、それが文化を生み出すものである。力のある国のいずれもが、食糧自給率が高いことはよく知られたことである。食糧は戦略物資に使われさえするが、わが国のように食糧自給率が五〇%に満たないのは、やはり問題であろう。いったん事があったときにどうするか。いつまでも経済力が豊かである保証はなく、国連に救済を乞うような事態に陥ることもあり得ないことではない。
それを恥ずかしいことと思うなら、自給率を高める何らかの工夫がなければならないであろう。現実はどうか。農業施策に見るべきものがないと言われるが、それよりも何よりも、農耕地が年ごとに減少してきているのである。農業は上地を生産基盤にするものであればこれは由々しき一大事である。
しかもである。農耕地は多くの場合、住宅や工業団地に浸食されている。一等地がである。地方の時代とかいって、企業を誘致するために農耕地を惜し気もなく押しつぶしているのをよく目にするであろう。町民の文化生活のためとか、人口低減をくいとめるなどの名目で、これまた便利な場所を提供しなければならないと、農耕地の一等地を住宅団地にしてしまっている。
農耕一等地をつぶす。これは不遜である。いまは経済力があるから他所から食糧を買い求めることができるとしても、やがてこれを反省することになるのではなかろうか。その時では遅いと思えるが、現実は人の騎りのままに進行し、これがとどまる兆しはない。
現場でなされるべきこと
そんな現実の中で農業者は義務として何をしなければならないか。農耕地は減り、食糧は増産しなければならないのである。とすれば、ここでは単位面積当たりの収量増を狙うことが当面の目標となろう。
土層・土壌改良に新たな目を向けなければならないことになる。
わが国は火山国であって火山灰上壌が比較的多い。火山灰土壌はやせているため、さまざまな土層・土壌改良が行われてきた。ある面ではこの関係の技術は世界で最も進歩していると言えるかもしれない。しかし、それはそれとして新たな技術を加え、より上地の生産性を高める技術を確立する必要がある。
上層・土壌改良とは一体どういうことなのか。端的には土層改良とは例えば作土の下に良質の土層があるので、これを深耕して作土と下層土を混和する。これは混層耕である。土壌改良は土壌の劣悪な化学性を改善するものであり、石灰とかリン酸などを投与し、土壌の内容をノーマルにするものである。心土肥培耕などがこれに当たる。
混層耕
耕うん機が発達しない昔は、小面積の耕起には馬耕もできないので、もっぱら鍬を用いていた。引き鍬で畦を立てながらの耕起であるので、いわゆる畦立て耕である。当時はこれが主流だったのである。ある野菜作農家は数年に一度の割合で、底掘りと称して鍬を五〇cmほど深く入れた。かなり重労働であるが、働くことを美徳にし、力仕事を自慢にしている時代にあっては、とくに苦にすることもない。考えるに、この深耕は一種の混層耕である。土地の生産性を最大限に高めようとして深耕、根圏域の拡大を図っていたのである。
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村井信仁
農学博士
1932年福島県生まれ。55年帯広畜産大学卒。山田トンボ農機(株)、北農機(株)を経て、67年道立中央農業試験場農業機械科長、71年道立十勝農業試験場農業機械科長、85年道立中央農業試験場農業機械部長。89年(社)北海道農業機械工業会専務理事、2000年退任。現在、村井農場経営。著書に『耕うん機械と土作りの科学』など。
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