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【農業経営者のための農水・JAウオッチング】
早期化するかコメ関税化
- 土門剛
- 第1回 1994年06月01日
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農水省、全中内部に早期化望む声も
昨年一二月に受け入れることを決めたウルグアイ・ラウンド(新多角的貿易交渉)の農業合意のなかで、関税化か猶予されたコメについて、「六年後を待たずに関税化すべき」という意見が、従来から市場開放を叫んでいた学者、経済団体ばかりでなく、農水省や全国農協中央会(全中)など、これまで市場開放反対を叫んできた側からも増え続けている。
ウルグアイ・ラウンドの合意では、コメは関税化の特例が認められ、ミニマム・アクセス(最低輸入量)として初年度に国内消費量の四%、六年後には八%を輸入しなければならない。二〇〇〇年以降に関税化するかどうかは「一九九九年に再交渉して決める」ことになっている。しかし、再交渉の時に日本が関税化を受け入れるであろうことは、まず間違いないだろう。
そればかりか、六年後を待たずに関税化すべきという意見は、「関税化した方が、輸入量は少なくなる」との見方からだ。六年後に関税化しか場合でも、関税率は今から関税化した時に適用されるのと同じ(当初の関税率を七〇〇%とすると六年後には一五%削減した五九五%が適用される)になる。このため関税化を早めに実施した方が、ミニマム・アクセスの量も増加せず、日本農業に与える影響は少ないだろうというわけだ。
こうした意見は、ウルグアイ・ラウンド交渉を直接担当していた農水省経済局内部に強く、食糧庁なども関税化後も国家貿易品目は維持されるため、緩やかながらも輸入米を管理できるため、必ずしも強く反対はしていないのが実情だ。
また全中などでも、「立場上、大声では言えないが」としながらも、関税化した方が、「合意の内容よりはましだ」という職員も少なくない。
実際には国内の政治状況などを考慮すると、六年後を待たずに関税化に移行できる可能性は低いが、関税化はもはや秒読み段階といっていい。
コスト削減へ問われる資材流通合理化
関税化した場合の国内政策として農水省が考えているのは、流通の自由化と先物市場を備えた自由市場と不足払い制度の創設が基本で、国は備蓄操作することで、国内価格の安定を図ろうというものだ。
この際、規模拡大を目指す農家には、農地取得、上地改良、技術修得などに現状以上に助成が拡大され、無利子融資などもつけられることが、農水省内部では検討されている。
関税化されれば、関税を加えた輸入価格と対抗するため、国内価格(現在の生産者米価)は最低一五%(農水省内部では農産物の国際価格の変動を織り込んで最低二〇%と見る向きも)は引き下げなければならない。そうしないと、輸入米の方が安く国内で流通することになるためだが、ダメージは兼業農家よりも、規模拡大している稲作専業農家の方が、所得に直接響いてくる。
オレンジ自由化で支払われたような離農給付金を、農水省では今回のミニマム・アクセスの受け入れでは実施せず、関税化した場合の対策としようとしている。このため消極的対策としては、関税化を契機に農業を離れることも一手となる。しかし現在の所得を維持しながら、農業を続けていこうとすれば、コスト削減の努力をしなければならない。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
農業経営者のための農水・JAウオッチング
時の政治状況を意識した行政、農業団体の公式見解と彼らの本音。建て前の言葉に振り回されない農業経営者のための農政展望として、一般紙経済部記者にメディアにのらない霞が関(農水省)大手町(JA)の陰の声を報告してもらう。
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