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和郷園は“小さな政府”
農家がオーナーシップを発揮し、個々が独立していけば、“小さな政府”を目指すことは可能だ。
農事“組合”法人和郷園がいままでやってきたことは、それを示す“壮大な実験”であった。和郷園はいうなれば、独立した農家がさらなる自律を目指して作った“小さな政府”だ。組合の組織が肥大化することもなく、組合が悪くいわれることもない。ゴールを農業者の自律としているためだ。逆説的だが、和郷園が必要なくなることが和郷園を作った目的なのだ。設立当初から私はそういい続けてきた。
他方、農協や和郷園のような組合を必要とせず、一気に独立を目指す農家も登場している。その戦略は「個人農場ブランドで勝負!」となるが、これは並大抵の道ではない。
和郷園も農協に背を向け、独自ブランディングで成功したといわれることが多いが、私自身、ブランド化を意識したことは一度もない。
まず第一に、農産物に確固たるブランドは確立し得ないと考えている。なぜなら農作物は食べ消化して、排泄するものであり、愛でて残るものではないからだ。
第二にブランディングを前提に、長期に経済的に自立するのにはきびしい世界である。仮に農産物を消費する人が100万人いるとしたら、ブランドを求める人はせいぜい3万人の上層客だ。限られた客を取り合う過当競争になってしまう。またその客は一時的にはお金を落としてくれるかもしれないが、絶えず上質なものを求めているため定着が難しい。そうした顧客を維持拡大するには、宣伝活動やネット通販対策など、モノづくり以外のところに膨大な時間と資金を使う。
対して、和郷園が目を向けるのは、100万人の消費者における80万人。8割を占める普通の人に、普通の価格帯で提供するのが、食品供給者である我われの仕事だと考えている。
メーカーとして行なう小売へのサポート
たとえば和郷園はネット通販で農産物を扱っているが、これは差別化や中抜きによる収益性の向上を目的としたネット販売とは性格を異にしている。実際、ネットの価格は、スーパーと同等か、あえて高めに設定している。翌日配送なのでスーパーよりも鮮度はいいが、送料は5000円から無料とし、一度の注文数は多くなる。つまり、総合的に評価すれば、スーパーで買ったほうが便利で安い。
和郷園は卸事業者である。スーパーや生協は和郷園の経営を支える窓口だ。サポートするのが当然である。スーパーに出かけて、ネットやマスコミで和郷園の評判を見知った消費者が、「ここはいいモノを置いている」と思えばスーパーのお株はあがる。宅配で送料を負担いただくなくとも、お客さまは毎日、スーパーに足を運んで買ってくれる。ネット通販は自社の宣伝やブランディングというより、メーカーとして小売業の広報をやっている感覚に近い。現在、世田谷にも直営のスーパーを出店しているが、これもブランディングという意識はない。日々消費する8割の人の購買行動を深く理解するための活動だ。
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木内博一 キウチヒロカズ
(有)和郷、生産組合(農)和郷園
代表理事
1967年千葉県生まれ。農業者大学校卒業後、90年に就農。96年事業会社(有)和郷を、98年生産組合(株)和郷園を設立。生産・流通事業のほか、リサイクル事業や冷凍工場、カット・パッキングセンター、直営店舗の展開をすすめる。05年海外事業部を立ち上げ、タイでマンゴー、バナナの生産開始。07年日本から香港への輸出事業スタート。現在、ターゲット国を拡大準備中。起業わずか15年でグループ売上約50億円の農系企業を築き上げた木内氏の「和のマネジメントと郷の精神」。『農業経営者』での連載で、その“事業ビジョンの本質”を初めて明かす。
木内博一の和のマネジメントと郷の精神
起業わずか15年でグループ売上約50億円の農業ビジネスを築き上げた“農業界の革命児”木内博一。攻めの一手を極める氏の経営戦略と思考プロセスを毎月、明かしていく。
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