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【農水捏造 食料自給率向上の罠】
民主党の「自給率60%トンデモ試算」と自民党の「子供だまし自給率キャンペーン」(民主党「戸別所得補償制度」徹底分析2)
- 農業ジャーナリスト 浅川芳裕
- 第12回 2009年09月01日
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産業のパイを国内に絞り、国産原料シェアを最大化するいまのやり方では必ず限界がくる。パイを世界に広げながら、国産と外国産が切磋琢磨することで、真に未来のあるマーケットが広がる。日本ではコメ、小麦、砂糖、バターなど主要素材について、自給率のためにとの名目で国策として、加工メーカーは国際価格で買うことが許されない。
海外の顧客ニーズに応える輸出についても、民主党にとっては「長期的な食料自給率向上のための手段」(民主党農林水産政策大綱)に過ぎない。外国の消費者に対して、失礼な話だ。国内にせよ、国外にせよ、需要というのははじめから存在するものではない。メーカーである農業者がアイディアと生産手段によって作りだすものだ。需要がゼロの市場に向けて、客が好み、関心を示す商品を送りだした結果、需要が生まれる。メーカーの知恵と努力の結晶だ。その結晶の対価が農業所得である。
日本以外に自給率向上のために、農業・食ビジネスをしている国はない。例えば、ブラジルがいくらサトウキビや大豆、綿花で生産効率が高くとも、小麦の競争力については他国に劣れば輸入している。5倍、10倍もかかるコストを国民に負担させてまで、増産をするなどあり得ない。そのような、経済成長に逆行する政策を政治家は立案しないし、あっても国民が許すはずがない。そんな金があれば、自国のもっと得意な農業分野に投資したり、一定の競争力を持った分野を伸ばすための技術開発などに使うものだ。そうした後方支援があってこそ、農家が独立して経営発展を実現できる。結果、雇用が増え、税収も増えるのだ。自給率が重要視されない所以は、世界的に、基本食料であっても互恵貿易が成立している証といえる。
転じて、民主党の1兆円政策。公約に謳う最終目標である、自給率100%を本気でやるとなれば、1兆円どころではないはるかに大きな負担を強いられる。2000万t必要な飼料作物や800万tの油脂作物を完全自給することになるからだ。そうなると今の耕地面積ではとても足りない。国土の7割を占める山林を農地に造成するなどして、毎年10兆円(筆者試算)が必要となるのだ。
こんなトンデモ自給率政策に比べれば、自民党政権のそれはお遊びであった。
昨年までの宣伝戦略は、食糧危機を煽り、輸入が止まる可能性を醸し出すネガティブキャンペーンであった。国産を応援して、国内生産をあげていかないと農家がいなくなって大変なことになる、との切迫感を出した。冷静になって振り返れば、昨年も一昨年も世界的に穀物は豊作で、食料危機どころではなく、増産に成功していた(FAO統計)。投資筋の穀物相場への影響力も下がり、価格も下落傾向にある。消費者にしてみれば、身の回りに食料はあらゆる場所であふれんばかりにあり、日本の食料廃棄量は3割に達しているといった有様だ。
海外の顧客ニーズに応える輸出についても、民主党にとっては「長期的な食料自給率向上のための手段」(民主党農林水産政策大綱)に過ぎない。外国の消費者に対して、失礼な話だ。国内にせよ、国外にせよ、需要というのははじめから存在するものではない。メーカーである農業者がアイディアと生産手段によって作りだすものだ。需要がゼロの市場に向けて、客が好み、関心を示す商品を送りだした結果、需要が生まれる。メーカーの知恵と努力の結晶だ。その結晶の対価が農業所得である。
日本以外に自給率向上のために、農業・食ビジネスをしている国はない。例えば、ブラジルがいくらサトウキビや大豆、綿花で生産効率が高くとも、小麦の競争力については他国に劣れば輸入している。5倍、10倍もかかるコストを国民に負担させてまで、増産をするなどあり得ない。そのような、経済成長に逆行する政策を政治家は立案しないし、あっても国民が許すはずがない。そんな金があれば、自国のもっと得意な農業分野に投資したり、一定の競争力を持った分野を伸ばすための技術開発などに使うものだ。そうした後方支援があってこそ、農家が独立して経営発展を実現できる。結果、雇用が増え、税収も増えるのだ。自給率が重要視されない所以は、世界的に、基本食料であっても互恵貿易が成立している証といえる。
転じて、民主党の1兆円政策。公約に謳う最終目標である、自給率100%を本気でやるとなれば、1兆円どころではないはるかに大きな負担を強いられる。2000万t必要な飼料作物や800万tの油脂作物を完全自給することになるからだ。そうなると今の耕地面積ではとても足りない。国土の7割を占める山林を農地に造成するなどして、毎年10兆円(筆者試算)が必要となるのだ。
国産愛用思想の背後にあるもの
こんなトンデモ自給率政策に比べれば、自民党政権のそれはお遊びであった。
昨年までの宣伝戦略は、食糧危機を煽り、輸入が止まる可能性を醸し出すネガティブキャンペーンであった。国産を応援して、国内生産をあげていかないと農家がいなくなって大変なことになる、との切迫感を出した。冷静になって振り返れば、昨年も一昨年も世界的に穀物は豊作で、食料危機どころではなく、増産に成功していた(FAO統計)。投資筋の穀物相場への影響力も下がり、価格も下落傾向にある。消費者にしてみれば、身の回りに食料はあらゆる場所であふれんばかりにあり、日本の食料廃棄量は3割に達しているといった有様だ。
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浅川芳裕 アサカワヨシヒロ
農業ジャーナリスト
1974年山口県生まれ。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。アラビア語通訳、Sony Gulf(ドバイ)、Sony Maroc(カサブランカ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。元・SOGULマーケット専門官。元月刊『農業経営者』副編集長。現在ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。2010年2月に講談社より発行された著書『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラーになる。最新刊に『TPPで日本は世界1位の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』(KKベストセラーズ)がある。
農水捏造 食料自給率向上の罠
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