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やがて集落のリーダー的存在となり、1961年に親和生産組合を設立。集落の有志たちと酪農、養豚、耕種の各部門を持つ農業生産事業体を立ち上げ、地元の若者たちを巻き込んでいった。畜産と耕種の連携による堆厩肥利用を促進する共同農業のモデルは、全国でも注目を集め、親和生産組合を紹介する映画も作られた。1976年には豚枝肉部門で農林大臣賞を受賞する。
ところが、そんな矢先、牛舎と豚舎が火災に見舞われる。損失額は1億円に上り、大きな借金を背負い込むことになる。当時、まだ中学2年生だった北村は、祖母が夜中に心配してうなされていたことを記憶している。命がけで豚や牛を守り、その後あたりまえのように事業を再興していく父親の姿を見て、いつしか同じ道を歩むこととなった。北村の開拓者精神の源流には父親の存在があったのだ。
集落営農の苦悩を 夢と誇りで飲み込む
こうして、北村の歴史をたどると、常に開拓者精神で道を切り開き、自然と人間の調和を大切にすることで、農業の可能性を追求してきた営みが浮き上がってくる。親和生産組合は26年前、父親が還暦を迎えたのを期に発展的に解消した。時代の変化の中で、組合の存在理由が薄れていったからだ。今の会社は、北村が新たに7年前に設立した別会社だ。養豚事業からは撤退し、3年前に特定農業法人の認定を受けて以来、集落営農の担い手としてさらに農地を拡大してきた。
集落営農には様々なタイプがあるが、北村は、集落農家の作業を請負う他に、地代を払って農地を借り受けコメの生産販売をしている。それも北村を見込んで品種名を指定して生産依頼してくる業者の注文が少なくない。
北村のところには「集落営農の担い手」だからではなく彼の人柄ゆえに農地が集まり、需要者たちも北村を信じて品種指定の発注をする。そして、若者たちもまたしかりなのである。まさに、必要とされて選ばれているのだ。
北村は集落営農ゆえの矛盾も抱えている。本来、特定農業法人が中心となり集落営農をするケースでは、土地の貸付者である高齢農家や兼業農家が草刈りや水管理を担当することを想定しているが、現実には担い手となった特定農業法人の負担が大きくなってしまうことが多い。たとえば、中山間地域の水田の畦や農道、水路の法面の草刈りなどである。平場とは比較にならないほど手間がかかる。鉄道や高速道路の法面の管理は、分割民営化後の担当各社がすることになっていて責任がはっきりし、そのコストも見込まれている。でも、集落営農の現場では管理責任の主体があいまいになっている。さらに、頼まれた農用地は、どんなに条件が悪くても断ることができない。そのため、行政の表向きの理想論と農村の現場は、なかなか一致せず、全国各地で様々な問題となっているのが現状だ。今後の日本の農業を強くするため、国際競争力のある農業経営を目指そうとしても、コストに見合わない作業を抱え込んで疲弊する担い手たちからは悲鳴が聞こえてくるようだ。減反政策も集落営農の制度も、農業経営者にとってはチャンスではなく、背負わせるものだけが増えているように思えてならない。
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北村進一 キタムラシンイチ
代表取締役社長
農業生産法人 有限会社親和
1952年、滋賀県米原市生まれ。高校卒業後、通称“サイボク”と呼ばれている埼玉種畜牧場で本誌でもお馴染みの農業経営者・田中正保と出会い夢を語り合う。21歳で社団法人農業研修生派米協会(現社団法人国際農業者交流協会)の第8回研修生として養豚を学ぶために渡米。現在、養豚事業からは撤退し、水稲47ha、麦28ha、大豆20haの他に野菜などを生産。3年前に居宅介護支援事業所ルピナスを開設し、全国でも珍しい農業と介護のコラボレーション事業の可能性を模索中。
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