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ところが、こうした現状をすべて飲み込んで、北村は農業を続けている。夢と誇りをもって大地に身を捧げる開拓者精神だ。頼りにされ、頼まれれば、水が噴出すような水田でも、山沿いの畦の大きな田でも、引き受けて精一杯耕す。取材当日も、農耕地を引き受けてほしいと地主が相談に訪れた。実は、北村の目指す新しい農業の可能性は、一見矛盾するようだが、あらゆる現状をあるがままに受け入れることにあったのだ。
農業と福祉のコラボレーション
北村の目指す農業とは、いったい何なのか。(有)親和の定款に定められた事業目的の項目を見せていただいて目を疑った。8項目のうちなんと半分が介護事業に関わるものだったのだ。居宅等介護事業、通所介護事業、訪問入浴介護事業……。事務所の奥には別室が設けられ、3年前に立ち上げた「居宅介護支援事業所ルピナス」の事務室があった。
「現在は、2人のケアマネージャーで細々とスタートした段階。でも将来は施設の中でのデイサービスではなく、野菜や花を作ったりしながら農業に関われる介護の環境を作り上げたいんや」
北村は、今年の夏にはデンマークに飛び、未知の分野である花きの現場を視察してきたという。農林水産省のホームページには、集落営農の新たな取り組み事例が紹介されている。最新のものでは、他産業との連携による労働力確保のために、地元建設会社と連携したというものがあるが、北村がやろうとしていることは、これとは逆の発想である。他の産業から農業の足りない部分を補ってもらうのではなく、誇りを持って農業の可能性を他の分野に活かそうという発想だ。既に新しくできたばかりのグループホームや、障害者の施設から、業務協力の相談が舞い込んでいる。北村の事業だけでなく、畦の草刈りなどに苦労している中山間地の農地、或いは農村そのものに新しいビジネスチャンスをもたらすものになるかもしれない。
世代を超えて引き継がれる 農業経営者の誇り
シルバーウィークの最終日、うれしいニュースが届いた。元高校球児の若手社員、土川に長男が誕生したというのだ。3684gでこの世に生を受けた命は、『陽太』と名付けられた。父となった若者は、今後、おっちゃんや仲間と一緒に農業と介護事業の可能性についても議論していきたいと電話口で語ってくれた。
「うちの会社に大切な土地を貸してくれた地元のじいちゃん、ばあちゃんたちに、負担がない範囲で再び土に触れさせてあげたい」
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北村進一 キタムラシンイチ
代表取締役社長
農業生産法人 有限会社親和
1952年、滋賀県米原市生まれ。高校卒業後、通称“サイボク”と呼ばれている埼玉種畜牧場で本誌でもお馴染みの農業経営者・田中正保と出会い夢を語り合う。21歳で社団法人農業研修生派米協会(現社団法人国際農業者交流協会)の第8回研修生として養豚を学ぶために渡米。現在、養豚事業からは撤退し、水稲47ha、麦28ha、大豆20haの他に野菜などを生産。3年前に居宅介護支援事業所ルピナスを開設し、全国でも珍しい農業と介護のコラボレーション事業の可能性を模索中。
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