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【江刺の稲】
ロシア沿海州の中国人経営者のたくましさ
- 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
- 第163回 2009年10月01日
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ロシア沿海州の水田地帯に行ってきた。今年2月に読者と共に同地を訪れた。同地でのメイド・バイ・ジャパニーズによるコメ作り、そしてイチゴ観光農園経営の可能性を考えるための視察であった。実際のコメ作りの様子を確認するために、8月にも再訪する予定にしていた。しかし、その計画は中断したままになっていた。
理由は、現地で農地の提供を受け、ニュージーランド人の農業経営者マーティン・テイト氏の農場が、「韓国の現代グループに買収された」と同氏を紹介してくれた関係者から聞いたからであった。僕は、直接本人に確認することもなくそれを真に受けてしまい、正直言って沿海州熱が冷めていた。
農地を借りる当てがなければ、いかんともし難いからだ。言うまでもないことだが困難はある。ロシアの輸入関税引き上げ、日本品種導入に関する日本側だけでなくロシアでの品種登録の問題なども、僕の嫌いな「できない理由探し」の材料にはなる。
しかし、僕自身で本人に確かめなかったことこそ問題であった。その後、テイト氏は農地をすべて手放したわけではなく、テイト氏が我われの再訪を期待していると伝え聞いた。
そこで、改めて沿海州のハンカ湖周辺のテイト氏の水田に行ってきた。テイト氏は同地域に500ha、さらにその後、別の地域に1000ha規模の農地を取得したそうだ。
春に訪ねた時、当面は中国人の農業経営者に土地を貸す形で稲作をしたいと言っていた。我われが2月に雪の上から見た水田や水路は、十数年も耕作放棄されていたため潅木が所々に生えている状態だった。テイト氏は「中国人なら何とかするよ」と話していたが、その通りだった。
約400haに稲を作ったという田は、草ぼうぼうの水田もあったが、雑草に負けず立派に稲が育っている田も少なくなかった。
日本では、耕作放棄された水田の復田がいかに困難かという話題は農業関係者の決まり文句だが、寒冷地の沿海州とはいえ、そんな人々にあの田んぼを見せてやりたかった。
それ以上に、テイト氏のパートナーとしてコメ作りに取り組む中国人農業経営者ミン氏らの姿を見て、そのたくましさに驚いた。
収穫時期を迎えた彼らは、荒野にテントを張り、キャンプしていた。ミン氏らは中国から持ち込んだ中国製ジョンディアのコメ用コンバインの整備をしていた。ミン氏は、プラウで田を起こし、湛水直播で種子を播いたという。復田二年目がゆえの雑草の多さと、除草剤を撒くタイミングが悪く、雑草に負けてしまったというが、常に18cm以上の深水で管理したという僕が見た1・5ha区画の田は立派にできていた。穂の小さなロシア品種であったが、haあたり4t以上は取れているだろう。
それにしてもミン氏らのハングリーでたくましい姿を見て、我われ日本人のひ弱さを感じてしまった。でも、日本人による農業は海外マーケットで求められている。10月には中国で食品スーパーを展開する企業家の要請で、彼が提供するという農地と店舗を見てくる。その人以外にも、本誌に対して様々な国の政府関係者やビジネスパーソンから、自国でメイド・バイ・ジャパニーズに取り組める農業経営者を紹介してくれという要請がくる。関心のある向きはお問い合わせいただきたい。
理由は、現地で農地の提供を受け、ニュージーランド人の農業経営者マーティン・テイト氏の農場が、「韓国の現代グループに買収された」と同氏を紹介してくれた関係者から聞いたからであった。僕は、直接本人に確認することもなくそれを真に受けてしまい、正直言って沿海州熱が冷めていた。
農地を借りる当てがなければ、いかんともし難いからだ。言うまでもないことだが困難はある。ロシアの輸入関税引き上げ、日本品種導入に関する日本側だけでなくロシアでの品種登録の問題なども、僕の嫌いな「できない理由探し」の材料にはなる。
しかし、僕自身で本人に確かめなかったことこそ問題であった。その後、テイト氏は農地をすべて手放したわけではなく、テイト氏が我われの再訪を期待していると伝え聞いた。
そこで、改めて沿海州のハンカ湖周辺のテイト氏の水田に行ってきた。テイト氏は同地域に500ha、さらにその後、別の地域に1000ha規模の農地を取得したそうだ。
春に訪ねた時、当面は中国人の農業経営者に土地を貸す形で稲作をしたいと言っていた。我われが2月に雪の上から見た水田や水路は、十数年も耕作放棄されていたため潅木が所々に生えている状態だった。テイト氏は「中国人なら何とかするよ」と話していたが、その通りだった。
約400haに稲を作ったという田は、草ぼうぼうの水田もあったが、雑草に負けず立派に稲が育っている田も少なくなかった。
日本では、耕作放棄された水田の復田がいかに困難かという話題は農業関係者の決まり文句だが、寒冷地の沿海州とはいえ、そんな人々にあの田んぼを見せてやりたかった。
それ以上に、テイト氏のパートナーとしてコメ作りに取り組む中国人農業経営者ミン氏らの姿を見て、そのたくましさに驚いた。
収穫時期を迎えた彼らは、荒野にテントを張り、キャンプしていた。ミン氏らは中国から持ち込んだ中国製ジョンディアのコメ用コンバインの整備をしていた。ミン氏は、プラウで田を起こし、湛水直播で種子を播いたという。復田二年目がゆえの雑草の多さと、除草剤を撒くタイミングが悪く、雑草に負けてしまったというが、常に18cm以上の深水で管理したという僕が見た1・5ha区画の田は立派にできていた。穂の小さなロシア品種であったが、haあたり4t以上は取れているだろう。
それにしてもミン氏らのハングリーでたくましい姿を見て、我われ日本人のひ弱さを感じてしまった。でも、日本人による農業は海外マーケットで求められている。10月には中国で食品スーパーを展開する企業家の要請で、彼が提供するという農地と店舗を見てくる。その人以外にも、本誌に対して様々な国の政府関係者やビジネスパーソンから、自国でメイド・バイ・ジャパニーズに取り組める農業経営者を紹介してくれという要請がくる。関心のある向きはお問い合わせいただきたい。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
江刺の稲
「江刺の稲」とは、用排水路に手刺しされ、そのまま育った稲。全く管理されていないこの稲が、手をかけて育てた畦の内側の稲より立派な成長を見せている。「江刺の稲」の存在は、我々に何を教えるのか。土と自然の不思議から農業と経営の可能性を考えたい。
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