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川から上がってこられた山田先生は、「俺は、自然と言う名前に改名したいのだ。山田自然、どうだ」と話しかけてこられたが、どう返答してよいか分からなかった。ご本人が言うまでもなく、自然児の風があり、男らしい野生のにおいが漂ってくる。
2人でよく旅行に出かけた。山田先生が、96年10月の選挙で落選した時には、イタリアへセンチメンタル・ジャーニー(感傷旅行)に出掛けたこともあった。出発当日のハプニングは、今はもう楽しい想い出になってしまった。前日、わが家(船橋)に泊まられた先生に、出発日の朝、何気なく「パスポートはお持ちですか」と訪ねたら、「事務所(永田町)に忘れてきた」との返事。
朝7時前のことで、飛行機の出発は10時、わずか3時間しかない。ほとんどアクロバットのような動きで、永田町の事務所にパスポートを取りに行き、8時半発の成田エクスプレスに飛び乗り、出発30分前に空港に滑り込んでこられた。
旅行中で驚いたことがあった。大きなスーツケースに、ぶ厚い本を何冊も持ってこられ、飛行機や汽車を待つ、ちょっとした時間でも寸暇を惜しんでページをめくっておられたことだ。塩野七生さんの大作、「ローマ人の物語」シリーズで、2週間近い旅行で4冊ほど読了されたようだ。その集中心たるや、さすが立派な方は違うものだなと感心した。
この時の旅行で極めつきエピソードを一つ。明日からシチリア島へという前日のこと、旅行分の現金を用立てるべく、手持ちのリラのトラベラーズチェックを現金に換えようと、ローマ市内スペイン広場前のローマ銀行支店に飛び込んだところ、1人2万円までしか換金しないと通告されてしまった。2万円ぽっちじゃ1日分の費用にしかならないのでカウンターでクレームをつけてやった。30分ほどすったもんだしていると、突如、山田先生がカウンターをドンと叩いて「国際法違反だ!」と怒鳴られたのである。
その剣幕に恐れをなした銀行員が、「隣の紳士は、今、何を言ったのか」と聞いてきた。「彼は、日本の国会議員をしていた方で、弁護士でもあられる方である。その方が、ローマ銀行東京支店でトラベラーズチェックを発行してもらった時には、2万円しか両替できないというような案内はなかったので、告知義務違反とか仰っておられるようだよ」。こう説明してやると、相手の銀行員はそれまでの態度をがらりと変え、「申し訳ないことをした」と謝罪した上で、希望額を換金すると申し出てきたのである。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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