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減反強化を打ち出せない事情
生産者にとって極めて厳しい状況だが、こうしたコメ過剰に対し、農水省は来年の生産調整を現時点では変更する方針はなさそう。鶴岡俊彦・農水事務次官は記者会見で「見直す気はない。二年計画としたことは、それなりに意味のあることだ」と断言した。
ある農水省幹部は、この鶴岡発言について「在庫の積み増しは、それが国民の要請だったからという意味だ。しかし、減反強化の必要性があるとしても、もっと現実的な問題として、ウルグアイ・ラウンド協定の批准を今秋の国会に控えている中で、役所から言い出せないということだ」と解説している。
一方、全中内部でも「減反強化が必要」とする声は少なくない。それでも、全中がアクションを起こすことはありそうもない。その理由についてある職員は、「減反を強化するべきだ、という声が生産者から全く出てこないから」と説明する。もともと現行の減反面積は、昨年の凶作で生産者から「減反緩和」の大合唱が巻き起こったのに対し、農水省が「二年連続で緩和する」と応じたもの。このため「緩和を要望した生産者から声が上がらなければ、全中は身動きできない。コメ価格が今後暴落するのは目に見えているのに、生産者はまだ現実の問題としていない」というのがこの職員の言い分だ。
さらに「ミニマムアクセス受け入れに伴う減反強化はしない」との政府の約束が、誤解されているのも要因の一つ。
「ミニマムアクセス受け入れに伴う」という前段が一般の生産者の頭の中には定着せず、「もう減反強化はない」と誤解されてしまった。このため、仮に生産過剰を理由として農水省が減反強化を打ち出しても、再び生産者からは「猫の目農政」の批判が続出することが予想される。これが、農水省の決断を鈍らせている、という訳だ。
つまり、減反をめぐっては農水省、全中とも「減反強化が必要」とノドまで出かかっているが、それぞれが抱える問題から、どうにも動けず、このまま来年も続けざるを得ないというのが実情だ。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
農業経営者のための農水・JAウオッチング
時の政治状況を意識した行政、農業団体の公式見解と彼らの本音。建て前の言葉に振り回されない農業経営者のための農政展望として、一般紙経済部記者にメディアにのらない霞が関(農水省)大手町(JA)の陰の声を報告してもらう。
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