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たとえば単位面積あたりの収穫量は、減ることはあっても増えることはなかったのです。私がいたセルビアでは、小麦は1haで5t取れる時もありましたが、2tしか取れない時も多く、収穫は安定していませんでした。肥料購入のための十分な資金調達もできませんでした。
そして何より、一番大きい要因として天候に大きく左右されてきたのでしょう。最近は毎年異常気象と言われていますが、今冬はどうなるのでしょうか。聞こえてくる話では厳しい冬になりそうです。ということは来シーズンの収穫は期待できるかもしれません。1月7日のクリスマスに雪が降ったら豊作だと昔から言われているからです。12月25日ではありません。正教ではユリウス暦(ジュリアス・シーザーの定めた暦)を使っているので、クリスマスも13日遅いのです。
農家を豊かにするにはどうすべきか、各国の政府や農業関係者が充分に検討し手立てを施したとはなかなか思えません。社会主義時代の集団農場を基礎に、企業形式の営農スタイルも生まれていますが、なかなかうまくいっていないようです。
夏になるとバルカンの市場は、色鮮やかなパプリカに埋め尽くされます。私にとっては調理するより生で食べるのが最高でした。バルカン地方ではパプリカのない生活なんて考えられません。年中食卓に上りますし、煮たり焼いたりして保存食も作ります。チーズや肉との相性もよく、現地の食文化はパプリカ尽くしなのです。
しかし夏も峠を越すと、市場の主役は秋野菜や果物に変わります。するとパプリカを大きな袋に入れて道端で売っている姿が目に付きだします。ひと山いくらで売るなんてもったいないような値段です。まだあちこちで売れるんじゃないのと思っても、遠くのマーケットに持っていく手段がないのです。流通インフラが整備されていないからです。倉庫を作って出荷量を調節したり、車で遠くへ運ぶこともできません。輸出すれば外貨も稼げるはずなのに、もったいない話です。
さらに惜しいことに、冬になると今度はスペインやイタリアなどからパプリカを輸入して、貴重な外貨を吐き出しています。何とかならぬものかと歯がゆい思いがしてなりません。
もっと気になるのは、換金作物を作ろうという機運がなかなか生まれてこないことです。もちろん設備投資が必要になるでしょうが、たとえば輸出して外貨を獲得するなどの名目があれば、低利の資金調達は可能でしょう。農業を変えるチャンスなのに残念なことです。
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越川頼知 コシカワヨシノリ
1972年三井物産�入社。2001〜2006年に同社セルビア・ベオグラード事務所長として、戦後間もない旧ユーゴ諸国をくまなく見て回る。2007〜2008年には同社ブルガリア発電所改修工事事務所長として、バルカンの奥深くまで足を伸ばし、帰任後は同社電力第二部にてバルカン地域の各種プロジェクトを手がける。
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