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新・農業経営者ルポ

生産者と顧客の間で新たな需要の創造目指す

デパートの地下食品売り場、通称「デパ地下」でダントツの人気を誇っているのが、サラダを中心とした総菜売り場である。これら中食産業の市場規模は、いまや7兆円を超え、なお年1000億円近い成長を続けている。中食産業の伸びの背景には、日本人の食のスタイルの大きな変化がある。その変化にいち早く対応し、総菜メーカーと連携して、さまざまなレタスの契約栽培を進めてきたのが、2クリアライズの岩瀬弥隆だ。2001年に同社を立ち上げてもうすぐ10年。時代に即応したビジネスモデルを、岩瀬は絶えず模索し続けている。取材・文/田中真知

 この15年間でダイコンやハクサイ、キュウリなど主要野菜の国内生産高は、200万t以上減少した。その中で唯一、生産量を増やしているのがレタスである。

 岩瀬は2001年からレタスの契約栽培を行ない、総菜メーカーやコンビニ、レストランなどに卸すというビジネスモデルで、順調に売上を伸ばしてきた。当初2億円だった売上は、一昨年には10億を超えた。その成長を支えているのは、企画マンともいえる岩瀬の、さまざまなアイディアであった。安全で、質のよいレタスを作ることはいうまでもない。いま重要なのは市場の動向を読み、消費者のニーズを的確につかみ、さらにはそのニーズを先取りするような商品開発だった。

 そのために岩瀬は、自社の圃場でさまざまな品種のレタスを実験的に栽培したり、都内の輸入食材を扱うマーケットに足を運んで新しい野菜の情報を仕入れてきた。あるいは生産者と総菜メーカーの交流の機会を設けたりと、積極的な取り組みを行なっている。

 既成の枠にとらわれない岩瀬のビジネスノウハウのルーツは、父・一雄を抜きには語れない。農業生産法人茨城白菜栽培組合の社長である一雄は、契約栽培によるハクサイ販売を軌道に乗せ、「ハクサイ界のドン」とも呼ばれる人物だ。興味深いのは、岩瀬が父のハクサイという世界から飛び出し、レタスという新たな市場を独自に開拓していったことである。そこには農家にとって大きな問題でもある、親から子への知恵の受け渡しや、経営移譲をめぐるヒントがあるように思う。


自分で作ったものに自分で値段をつける農業を

 岩瀬家は、弥隆で十四代目になる古くからの農家である。弥隆の父・一雄(1936年生まれ)は祖父が若くして亡くなったため、早くから生計を立てなくてはならなかった。しかし、なぜ農業では、自分で作ったものに自分で値段をつけられないのかを疑問に感じるようになった。

 そんなある日、ある漬物屋が飛び込みで一雄のもとへやってきた。漬物屋は、たくわん用のダイコンがほしい、値段も決めて売ってくれないかという。一雄は驚いた。農産物の世界でも、こちらが値段を決められるような商売のやり方があるのだ。いまから約半世紀前のこの出来事が、一雄の出発点となった。

 その後、漬物屋からはもっとたくさんダイコンがほしいと言われ、仲間を募って作付面積を増やしていった。さらに30年ほど前、第二の転機が訪れた。ハクサイの浅漬けがブームになり、漬物屋のハクサイ需要が高まった。当時の漬物屋の部長が、「新理想ハクサイ」という黄芯のハクサイを作ってくれないかと持ちかけてきた。それは昔ながらの品種で、味はいいが病虫害に弱いため、農家の自己消費用として作られていた「幻のハクサイ」だった。

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