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【編集長インタビュー】
本物のイタリア野菜を作るなら、まず食文化を肌で実感しませんか
- イタリア食文化研究家 長本和子
- 第65回 2010年01月01日
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イタリアの食文化にある「食=生き様」の価値観
昆吉則(本誌編集長)まず、イタリアとの出会いを教えてください。
長本和子(イタリア食文化研究家)実家は大正時代から続く喫茶店で当時は文化人が集まる場所でした。子供の頃からまだ見ていないものを見てみたい気持ちが強く、25歳を過ぎて海外をまわり、行き着いたのはイタリア。ふと見た崩れた塀にツタが絡まり、一筋の陽が当たっている様子から、そんな美を愛でるイタリア人の感性のようなものを知りました。日本とイタリアの間に立つ者として、小さい存在なりに何かを伝えたい。イタリアは何か一つとりあげても歴史が深いですから、範囲をしぼって食を扱っていこうと思ったのです。
昆 海外に出ると、合わせ鏡として自分がよく見えるようになります。とかく日本ではスクラップアンドビルドで新しいものを取り込みますが、アイデンティティの無さが目立ちます。
長本 日本もイタリアも深い歴史がある。それは共通です。違うのは、海を隔てて侵略者から守られてきた日本では「海の向こうからいいものが来る」と無防備に歓迎するのに対し、イタリアでは外から来たものを簡単に取り入れたらアイデンティティが脅かされるという、歴史から学んだ警戒心があるのです。
昆 アイデンティティを大事にして、食べ方を文化のレベルまで引き上げている。これは、消費側の「人」の役割も大きいですね。
長本 イタリアでは「生まれてきて幸せ」という考え方が強いように思います。生きていくから美味しいものが食べたい、だから工夫をする。幸せということへの考え方が違います。私たち日本人は、働くことが幸せ。一緒に食卓を囲むことは大事にしても、食べること自体は重視してきませんでした。そこには日本人独自の価値観があります。ただ単に食材だけをイタリアから持ってきてもずれが出てきてしまいます。
昆 カルシウムなど土壌も違うから、作った食べ物も違うものになるし、文化も違いますね。
長本 そのなかで、日本でイタリア料理をやる意味は何か。イタリアでは土地があって、そこからとれる食材があって、その制約の中で料理が作られる。今の料理人は修行に行った料理店の技法だけでなく、その感性を学んで帰ってくる誠実さがあります。知り合いに東京の一流店を返上して、地方の馬場の隣で、畑を作りながら店をやっている料理人がいます。それはイタリアの、店の後ろに畑があってそこでできた野菜を使って料理する……という生き様と料理を重ねて持ち帰ってくるのです。
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長本和子 ナガモトカズコ
イタリア食文化研究家
イタリア料理を学ぶためにイタリアへ渡り、国立ホテル学校へ留学。その後イタリア料理関係の通訳等を経て、1997年、ict食文化企画を設立。イタリア・トリノにあるICTと共に、イタリア料理・ワイン研修を企画。2006年東京にリストランテ カシーナ・カラミッラをオープンする。著書に『イタリア野菜のABC』(小学館)『シチリア海と大地の味』(文化出版)『いちばんやさしいイタリア料理』(成美堂出版)がある。
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