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表と裏で合計20俵 加工米を2期作で
コメ改革元年、仕事始めは福岡・久留米だった。特米業者、一昔前に“ヤミ米業者”と呼ばれることもあった特定米穀業者の集まり「九州穀物卸協同組合」(通称、九穀)が相手の講演会。懇親会で、筆者の席へやってこられた大分県の女性の質問が秀逸だった。いまだ制度変革についての理解が及ばぬ農協組織とは雲泥の差がある。いずれコメ生産と流通におけるポジション転換の萌芽となり得る予感がした。
その彼女、「加工米が有利と判断しましたよ。それも2期作で増収を狙います」と、話しかけてきたのだ。講演では、戸別所得補償モデル事業と水田利活用自給力向上事業の仕組みについて説明したうえで、筆者なりに九穀メンバーということを念頭に入れて対処方針を話しておいた。
「皆さんは、酒造業界向けに原料米を扱っているわけだから、生産者に加工米を2期作でつくってもらい、値段を安くして売り込めばいいのです。例えば、1期目に9俵、2期目に5俵つくっただけでも14俵になります。これに水田利活用コースで加工用の10a/2万円が上乗せされるので、戸別所得補償をもらうよりずっと有利になる計算です。九州は、その昔、2期作をやっていたではないですか」
現在、加工米価格は1俵(60o玄米)9000円程度。例の事故米のおかげでJAS法が厳しく適用され米価が上昇。増産が可能になれば加工米についてくる10a/2万円は行きがけの駄賃のようなものになる。
ただ彼女の話では、2期作目はひこばえを刈り取るとのことだった。肥料などやる必要がなく、コストもかからないので、収入も増えるという計算だが、筆者的にはお奨めではない。収量が期待できないからだ。1期目が平均で7俵から8俵ぐらい。ひこばえが3俵ぐらい。その女性にはこうエールを送っておいた。
「ひこばえ収穫の消極的方法ではなく、2期目もきちんとした作付けで増収を狙うことですよ。それには増収向け品種を導入し、栽培技術を磨くことです。表(1期作目)で13俵から14俵、裏(2期作目)で6俵から7俵程度を狙う先端的な生産者もいるのですよ」
かりに表と裏で20俵獲れれば、戸別所得補償コースも、主食用のフル作付けコースも、目じゃなくなってしまう。
彼らのライバル、農協組織が取り組む水田利活用コースについても触れておいた。
「農協組織は、定番の麦・大豆コースになると思います。補助金を使って麦・大豆向け乾燥調整施設をつくっているので、今回の水田利活用コースで加工米が有利になったからという理由で、麦・大豆をやめて加工米に切り替えることはできない。そんなことをしたら、会計検査院から目的外利用ということで大目玉をくらうことになるからです」
ちなみに麦・大豆コースは10a/3万5000円に、品目横断的経営安定対策がほぼ同額つくが、従来よりは減額となる。加工米コースと比較すれば決して有利ではない。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
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