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米価2万円時代は、15haなら反収9俵で計算して1350俵になる。これに2万円をかければ2700万円の粗収入。経費率は50%ぐらいだろうか。それを差し引いて手元に残る所得は平均的に1200万円から1400万円。現行米価1万3000円では、粗収入は1755万円になる。ところが経費は変わらない。よって所得は400万円から500万円になる激減。少しでも所得を増やそうと転作奨励金狙いで減反に協力してくるのだ。
大潟村が米価バブルに踊ったのは、もう10年以上も前のことだ。今でも忘れないエピソードを紹介しておきたい。平成の大不作(5年)の翌年の2月、涌井代表の仲間でフル作付け派26人と一緒にオーストラリアへ旅行したことがあった。
シドニーから成田へ着いて解散式の時だった。参加した農家の方々に「今回の旅行は視察旅行として経費で落ちますから、こちらの方で報告書をつくっておきましょうか」と申し出たところ、皆さんが首を横に振ってきた。そこで「どういう方法で納税を」と質問したところ、「標準課税!」と答えてきた。農業標準課税とは、記帳なしに税金の申告を簡単に済ませることができる方式で、02年に廃止されている。
当時は平成の大不作で米価が大暴騰。1俵3万円、4万円の値が付いていた。フル作付け農家なら、反収9俵として4050万円の収入。経費を半分と見積もっても2000万円の所得となる。全量、「白」、つまり精米で売っていた農家には、3000万円の所得をあげていた強者もいたようだ。
一方の減反協力派は米価暴騰の余慶にはほとんど無縁だった。それどころか減反協力による損失分と農協(カントリー)出荷による経費増で経営は好転せず。その所得差は、優に1000万円はあっただろうか。
大潟村のフル作付け派に税務署が入ったと聞いたのは、それから数カ月後。ある農家に税務調査に入ったところ、所得隠しが判明。1000万円ほど追徴課税したところ、現金でポンと払ってきた。これに目を付けた税務署がフル作付け派を対象に税務調査の投網を打ち、所得隠しがぞろぞろ出てきたというのである。
ペナルティ問題の根底にこうしたことが横たわっていることはあまり知られていない。
減反協力派農家を 貧 に追い込んでしまった行政や農協組織が、フル作付け農家に無意味なペナルティを押しつけることによって、減反協力農家の鬱憤を晴らすように仕向けたことが大潟村ペナルティ問題の始まりだった。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
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