記事閲覧
「日本は最低水準」と農水省が発表しているが、同じルールを採用している国はゼロ。賛同している国さえない。それ以前に日本はこのルールを他国に広めようともしていない。
誰も知らないルールをつくり、一人、自給率オリンピックを開催している。しかも、参加していない他国の自給率は主催者の農水省が勝手に計算してあげている(が、そのことは当該国には知らせていない)。そして、一人寂しく、結果発表する。「先進国最下位でした。国民の皆さん、このままでは日本はたいへんです。農家の皆さん、もっと順位をあげて参りましょう。そのために農業予算を増やします」と。
この滑稽さを知ってもらうために農業GDPを出したわけだ。自作自演の世界最低水準が日本農業の実態なのか? それとも国際基準の世界5位が現実なのか?
自給率一人オリンピックの滑稽さの裏に、主催者が抱える問題の根の深さが感じられる。自給率の国際比較をでっちあげる自作自演の背後には何があるのか。
農水省幹部の次の言葉がすべてを言い表している。
「自給率の根拠がなくなると農水省の仕事がなくなる。そしたら、俺たちが食っていけなくなる」(筆者取材)
ちなみに、この農水省主催のイベントをいま、全面協賛して盛り上げているのが、民主党だ。マニフェストを意訳するとこう読める。
「10年後に50%、20年後は60%を目指しましょう。その実現に向けて、所得補償予算の1兆円を毎年つけます。だから、農家の皆さん、民主党を応援してください。20年後、例え60%になっても、幸いにして先進国の中で最低のままです。だから、予算の心配は要りません。いつの日か100%を達成しましょう」
自給率を指標とすれば先進国中最低と謳い続けられる=自給率は政治的ツールとして極めて長期にわたって有効に使える。
しかし、1月号で指摘したとおり、自給率を根拠にした農業予算の捻出が通用しなくなるときがいずれくる。転作奨励金(来年度から水田利活用)などを当てにして経営をする読者諸氏にとっては死活問題になる。今のうちに、これまで農水省が考案してくれた自給率政策に代わって、国民に訴えかけられる税負担の正当性の根拠を創り出すことをおすすめする。
日本の農家は11位、日本人は20位
読者の問いに戻ろう。農業者一人ひとりの豊かさを示す国際指標には、「農業(林水産業含む)従事者一人当たりの付加価値」がある。世界銀行が刊行する世界200近くの国と地域の経済統計のデータベース「世界開発指標」のひとつである。
会員の方はここからログイン
浅川芳裕 アサカワヨシヒロ
農業ジャーナリスト
1974年山口県生まれ。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。アラビア語通訳、Sony Gulf(ドバイ)、Sony Maroc(カサブランカ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。元・SOGULマーケット専門官。元月刊『農業経営者』副編集長。現在ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。2010年2月に講談社より発行された著書『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラーになる。最新刊に『TPPで日本は世界1位の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』(KKベストセラーズ)がある。
農水捏造 食料自給率向上の罠
ランキング
WHAT'S NEW
- 有料会員申し込み受付終了のお知らせ
- (2024/03/05)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2023/07/26)
- 年末年始休業のお知らせ
- (2022/12/23)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2022/07/28)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2021/08/10)