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視点

厳しいからこそ挑戦する価値がある

  • サントリーホールディングス(株) R&D企画部植物科学研究所  主任研究員 勝元幸久
  • 第70回 2010年03月01日

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 バラ育種の歴史は古い。本格的な交配育種は約800年前から始まり、200種ほど存在すると言われる野生のバラから、これまで約2万5,000種もの品種が作られてきた。しかし、すべてのバラはデルフィニジンという青色色素を合成するのに必要な遺伝子を持っていない。そのためどんなに交配を繰り返しても純粋な青を発色させることはできない。青いバラは自然発生的に「不可能の代名詞」と呼ばれるようになった。


あきらめなければ、失敗ではない

 サントリーは1990年にフロリジン社(当時:カルジーンパシフィック社)と提携し、青いバラの共同研究を開始した。当社には創業者・鳥井信治郎の口癖でもあった「やってみなはれ」精神があり、難しいからこそあえて挑戦する企業風土が根付いている。青いバラは「不可能」としてシンボリックな存在であったため、われわれは、その実現を目標に掲げた。

 だが、幾多の育種家が挫折してきた青いバラは、困難の連続だった。もっとも半信半疑では、絶対に実現できない。そこで「あきらめなければ失敗にはならない」という強い意志で取り組み続けてきた。そしてリンドウ、チョウマメ、ラベンダーなど、青い花を咲かせる品種からデルフィニジンを作るための遺伝子を抽出し、実験を繰り返した結果、青いバラを咲かすのに有能な遺伝子はパンジーであることを突き止めた。

 2004年、研究成果を発表した後は各協会や学会から賞をいただき、昨年11月には『アプローズ』(喝采:花言葉は「夢 かなう」)の名前で発売し、多くのお客様から好評をいただいている。ただし『アプローズ』は、花弁に青色色素をほぼ100%含み、従来の“青色系”バラとは異なる独特の青みを持っているが、スカイブルーのような目の覚める青さではないことも事実だ。開発はまだ始まったばかりであり、今後はもっともっと青さを追求していきたい。


信頼は研究者自身から

 科学はすべてが例外なく自然の法則に基づいて成り立っており、最先端のバイオテクノロジーであっても、その法則から外れるものは作り出せない。しかしお客様は先進技術に対する漠然とした不安や、企業、研究者個人に対する不信感を心のどこかに持つ。だから科学データの裏づけや技術論を一方的に押しつけ、法令を遵守しているだけでは安心してもらうには至らない。まずは研究者自身が“Good Person, Good Company”となり、お客様から信頼される必要があるのではないか。そのために十分なコミュニケーションを行い、正しい情報を分かりやすくしかも適切なタイミングで伝える活動を地道にすべきだと思う。

(まとめ・鈴木工)

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