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特集

稲直播栽培の技術的可能性と経営的問題点

水稲直播栽培の技術的問題点と研究開発の現状

(農水省農林水産技術会議事務局 研究調査官 松村修)


 水稲の直播栽培は、戦前の北海道における湛水直播、戦中~戦後の麦間直播、田植機登場までの乾田直播、昭和五〇年代のカルパー利用の湛水土壌中直播など、程度の差はあれ、数度の普及や技術開発の波とその消長を繰り返しながら現在に至っている。

 明治二六年に北海道で最初の直播試験が実施されてから、ほぼ百年が過ぎた。日本農業にとって、おき火のような存在である直播稲作に、今また米輸入自由化を中心とした新たな風が吹き、燃え広がろうとしている。今後、我が国で直播栽培がどの程度普及するかは、技術的な問題点の克服にかかっているといってよいだろう。

 ここでは、直播稲作の抱えている技術的問題点と、その解決のための研究開発の取り組み状況を紹介したい。


圃場基盤と初期管理が最大の課題

 大規模経営への直播の導入を考えた場合、最大の目標となるのは生産の安定化であろう。多少とも減収するにしても、それが予測できる範囲であれば、何らかの形で経営の中に取り入れることができるからである。しかし一方で、直播が本質的に移植に比べて、より不安定であることは否定できない事実である。

 環境変化や病害虫に最も弱い時期である発芽~苗立ちの時期を、人工育苗という保護条件下で過ごす移植稲作に比べ、直播では、温度や覆土条件により発芽・苗立ちは大きく左右されるし、雑草との競争もよりし烈であるからだ。

 このため、現状の直播技術は、乾田直播、湛水直播を問わず、播種後三~四週間の初期水管理や雑草管理に入念な技術を必要としている。移植栽培で「苗半作」であるなら、直播では「播種後二〇日半作」といってよいだろう。この時期の初期管理が、全体の作柄をほぼ決定するといって差し支えないだろう。

 初期管理で重要なのは雑草防除と苗立ち確保であるが、その成否の鍵となるのは、乾田直播では圃場整地と除草剤散布のタイミングであり、湛水直播では圃場整地と水管理の自在性である。このうち圃場整地と水管理の自在性は、施肥や防除技術のような管理テクニックではなく、いずれも圃場基盤そのものである。

 つまり、直播の成功の鍵はまず圃場基盤にあるといえる。

 事実、直播の失敗事例の多くは、圃場均平が悪かったり、漏水により水管理かうまく行かない場合、苗立ち不足や雑草繁茂という形で生じており、肥培管理や病害虫防除の失敗によるものは少ない。これはもちろん直播の中間管理が容易であるのではなく、むしろそこへつなげるまでの、正常な苗立ちと雑草抑制という入り口の部分でこけてしまっていることを意味している。

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