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特集

稲直播栽培の技術的可能性と経営的問題点

 こうした規模拡大の結果、滋賀県の稲作生産費は平均で一〇a当たり一九万八〇九八円であるが、私の経営の平均値をとると二一万五一四二円となっている。県平均の六三%の水準である。

 単に規模が大きいだけでは、そのスケールメリットを発揮できるものではない。経営の規模が大きくなれば、それにつれて機械装備も大型化し、場合によっては同じ機械を何台も所有しなければならなくなって、農機具費や減価償却費がかさんで、結果として規模のメリットを埋没させてしまうことが、決して少なくない。

 私は、そうした愚だけは犯すまいと心がけてきた。確かに経営の総体としては、大きなものになったが、水田はあくまで借地であり、一区画三〇a前後という小区画水田の総和としての大規模経営である。

 したがって、私は、むやみに大型の機械を導入するのではなく、自分の水田規模に合わせて機械を導入してきた。そのために、昭和六二年に導入した耕うん代かき用のトラクタは、それまでの四〇馬力から三二馬力とするなどの判断もとったのである。

 また、中古農機具の導入や、保守点検を励行することによって、機械の耐用年数を延ばすなど、農機具等による減価償却費の増大を極力抑えるよう努めてきた。


規模拡大を阻む育苗作業のはん雑さ

 しかし、こうした努力によって低コスト稲作をめざしてきたとはいえ、外国と比較すると、あまりにも差が大きく、話にならないレベルである。経営規模、農地価格、農地の集積度、借地料、そして生産資材価格など、どれ一つをとっても、外国に比べると、コスト低減を妨げる障壁があまりにも高すぎる。

 制約の大きい条件とはいえ、条件はあくまでも条件でしかない。その困難な条件のなかでも、低コスト稲作を実現してゆかなければならない。そのための技術は何か。私は、就農以来、その答えを直播栽培に求め、関心を持ち続けてきた。

 安定した技術が確立できれば、直播は究極の低コスト稲作である。風土は違うとしても、先進国がみなやっているという直播稲作がこの日本でもできれば、育苗の手間も移植作業も不要となり、大幅なコスト低減ができる。そう考えたのである。

 ところが、昭和四〇年代に入ると、田植機が急速に普及し始めた。田植え稲作では、昔から「苗半作」といわれるように、育苗の成否が安定多収の鍵をにぎる。田植機は、稚苗・中苗育成の安定技術を伴っていたのである。そのために、短期間のうちに、あっという間に田植機が普及していったのだろう。

 この田植機の普及によって、直播稲作への私の関心は、しばらくとぎれた。そして、試験場などでの直播の研究も中断した。私の経営の歩みは、この田植機による省力稲作で規模拡大を図るという方向をたどる。

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