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先進国では、穀物の直接消費が1人当たり100~150kg、家畜を通しての間接消費が300~500kgで、平均600kgも消費している。要するに、飽食の過剰摂取だ。一方、発展途上国では肉の消費が少なく、平均で250kg程度。これらを足した需要を供給が上回るため、増えているのが燃料用というわけだ。
ただし人間が食べるための穀物と、家畜にエサとして与える穀物、そしてバイオ燃料用の穀物などを、別モノとして考えることには意味がない。これらは、そのときの需要と供給の関係で売り先が異なるだけだからだ。食用だった小麦が翌年はエサに回ることもあるし、燃料用だったトウモロコシがエサ用になることもある。これを穀物の代替性という。
事実、燃料用に売られるはずだったトウモロコシが、08年、石油価格の急落を受け、エサ用に大量に出回った。また07年の価格上昇を受け、翌年世界で11%も増産された食用小麦は、在庫がだぶつきエサ用にシフトした。米国で大豆が減産すればブラジルで増産したように、産地も移動する。
すなわち、生産量の中から市場価格に応じて一定の変動比率で食用、飼料用、工業用と振り分けられるのだから、食用の穀物だけが激減する事態はあり得ない。仮に一時的に減少した時でも、価格が上昇するため、ほかの用途から結局回ってくることになる。さらに、価格高騰によって新規投資が刺激され、増産に向かう。事実、2年前に起こった価格高騰の結果が、新興国による農地取得やインフラ投資という形で現在顕在化している。
しかも、一定面積当たりの収穫量も増え続けている。過去40年で2.5倍上昇し、ここ5年でも14%増加。加えて、穀物が儲かるとなれば、ほかの作物を作っている世界の農家が参入してくる。綿花や食用油用作物、イモ類、サトウキビなどの作付面積は、主用穀物以上の4.5億haもある。さらには、世界の農地面積15億haのうち20%の3億haは、何も作られていない休耕地だ。
つまり、少なくとも穀物の絶対量が足りなくて、世界的に人間が飢餓に苦しむという食料危機は、まず訪れはしない。
そもそも飢餓と呼ばれる問題の原因は、貧困であり、非民主的な国家の社会問題である。つまり、需要サイドの食料へのアクセスの脆弱性や欠如が直接原因であり、決して、食料の絶対量が不足する供給問題でないないことは、あらゆる歴史的事実と研究が示している。
世界の食料供給量は、人口増加ペースより高い水準で増えている。
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浅川芳裕 アサカワヨシヒロ
農業ジャーナリスト
1974年山口県生まれ。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。アラビア語通訳、Sony Gulf(ドバイ)、Sony Maroc(カサブランカ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。元・SOGULマーケット専門官。元月刊『農業経営者』副編集長。現在ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。2010年2月に講談社より発行された著書『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラーになる。最新刊に『TPPで日本は世界1位の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』(KKベストセラーズ)がある。
農水捏造 食料自給率向上の罠
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