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【農水捏造 食料自給率向上の罠】
世界100カ国分の農業研究予算を持つ、農水省「食料危機シナリオ」文書の怪
- 農業ジャーナリスト 浅川芳裕
- 第19回 2010年03月31日
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自給率の向上を国策にする理由として農水省が掲げる「国際的な食料危機」がでっちあげではないかとの疑問を、先月号で呈した。食料は不足どころか需要に対して供給過剰であり、市場拡大を図ることでそれを解消する必要がある。そのために、農家が開発した商品がバイオ燃料用作物であることにも言及した。
農水省にこの論考に対する反論を求めたところ、「食料危機はあくまで世間一般の見方であって、農水省の見解ではない」(食料安全保障課)との回答を得た。
さすがは「無謬性の原則」を貫く官僚らしい答弁だが、広報予算を毎年48億円も計上し、食料危機を煽る情報を流し続け、その不安を国民に広く一般化してきた張本人が彼らであることにはいささかの疑いもない。
しかも、食料政策を司る農水官僚の責務の重大性を考えれば、「一般的な見方であるから」を根拠に国民に誤った情報を流布するはずがない。深謀遠慮があるに違いない。その発信源である食料安全保障課は、予算削減・行政刷新の流れで各省庁が局課数を減らすなか、農水省で近年、唯一新設された課である。我われが伺いしれない情報源を持ち、精緻な分析を行なっているはずだ。
食料安全保障課が「国際的な食料危機」を一般論だと結論づける根拠となる資料を見てみた。同課の「食料自給率目標の考え方及び食料安全保障について」だ。その信憑性についてひとつずつ確認していきたい。
まずは、農水省の食料危機シナリオを整理しておこう。「途上国での人口増加」「中国での肉消費の増大」「バイオ燃料の増加と食料需要との競合」といった需要増大に対して、生産面では「地球温暖化や異常気象により主要国の減産」「水資源の制約」「単収の伸び率の低下」を上げている。その結果、「需給のひっ迫予測を背景とした過剰な投機資金の流入」により、「価格の急激な高騰」「在庫量の減少、輸出規制により、貿易量の減少」が発生し、「食料危機の懸念」が現実のものとなる。
これほど悲観的かつ単線的なシナリオは、世界の国や国際機関のどの公的文書を探しても、なかなかお目にかかれるものではなかろう。そもそもこの文書には、危機感を全面に押し出しながらも、(1)歴史的な分析視点が一切ない、(2)経済学的な検証が一切ない、(3)日本の科学技術が世界の食料にどう貢献するかの意思が一切ないのである。
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浅川芳裕 アサカワヨシヒロ
農業ジャーナリスト
1974年山口県生まれ。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。アラビア語通訳、Sony Gulf(ドバイ)、Sony Maroc(カサブランカ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。元・SOGULマーケット専門官。元月刊『農業経営者』副編集長。現在ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。2010年2月に講談社より発行された著書『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラーになる。最新刊に『TPPで日本は世界1位の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』(KKベストセラーズ)がある。
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