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そして、そこから見出された政策(先10年の食料・農業・農村基本計画)の方向性は、「自給率を高めていく」「農業を魅力あるものにする」「国産農産物が消費者に受け入れられるようにする」「自給率向上の意義を国民に説明していく」といった、鎖国的かつ牧歌的なものだ。
我が国の農水省が農業の研究開発に割く金額は、世界中の全政府の同予算合計の約5分の1を占める。日本は農業研究大国なのである(IFPRI:国際食糧政策機構調べ)。これは中国の2倍、インド、中南米の5倍、中東・北アフリカ諸国の7倍、ブラジルの10倍、サハラ以南の全アフリカ諸国の30倍の規模だ。なんとこれら106カ国の予算を足した金額より大きい。これほど潤沢な予算を使った国の食料政策の分析と結論において、世界に向けて発信できる内容がまるでないのだ。
水資源と農業生産は比例しない
気を取り直して、シナリオの信憑性を確かめていこう。まずは「水資源の制約」だ。同資料では、「農作物の供給量の増大に対して、様々な不安要因が存在し、既に影響が顕在化」としたうえで、国際水管理研究所(IWMI)の水の制約状況を示す世界地図を掲載している。当然のようにそこにはなんの解説もない。
あたかも世界中で水資源の制約により、農業生産が限界に達しているような印象を与える。しかし、実際のところ、水資源と農業生産に単純な比例関係はまったくない。
事実に即していえば、国連の発表どおり、「世界の農地の大部分は灌漑されておらず、降雨により生産されている」(ユネスコ「世界水開発レポート」2006)からだ。いわゆる天水農業だ。
水資源に依存する世界の穀物生産地(農地灌漑率)は、全農地面積のわずか5.7%にすぎない(FAO2001)。穀物以外の全農作物を合わせた農地の灌漑率でも17.8%ほどだ。その灌漑地の7割近くは水田地帯の多いアジアに集中しており、アジアを除けば、世界の灌漑率は1割にも満たない(9%)。その限られた灌漑農業にしても、利用している水量は、「世界の貯留水量に対して、毎年その6.2%と低いレベルで、食料の増産が世界的な水不足を引き起こすリスクはほとんどない」(同ユネスコ)。その水資源ももとはといえば降雨である。農業で使おうが使うまいが、日々、蒸発し、河川を通じて大海に流れ出ている。
ユネスコは、「水不足によって世界の食料生産が脅威にさられているという一般論には、2つの盲点がある。農業生産の大部分が水資源からの取水(灌漑)に依存していないこと、自然に起こる水資源の変動を農業が必ずしも増幅しているわけではないことをまったく考慮していない」と指摘している。
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浅川芳裕 アサカワヨシヒロ
農業ジャーナリスト
1974年山口県生まれ。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。アラビア語通訳、Sony Gulf(ドバイ)、Sony Maroc(カサブランカ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。元・SOGULマーケット専門官。元月刊『農業経営者』副編集長。現在ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。2010年2月に講談社より発行された著書『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラーになる。最新刊に『TPPで日本は世界1位の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』(KKベストセラーズ)がある。
農水捏造 食料自給率向上の罠
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