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この指摘は、世界の穀物生産率と取水率のデータを比較してみれば簡単に裏付けられる。生産の20%を占める欧州では、世界の水資源から農業取水量に占める比率はわずか5%であり、15%を生産するの北米でも8%を占めるのみである。これに主力な穀倉地帯であるオセアニアと南米を足してみても、穀物生産率44%に対して、取水比率は21%と、天水を主体にして水資源効率の高い農業生産を行なっていることがわかる。
ちなみに、世界の貯留水の29%を保有する南米では、農業用にその水資源を1%も使っていない。
こうした事実から導き出せる答えは、農水省の現実離れした、あいまいな悲観論では決してない。
むしろ、これほど低い灌漑率と水の利用量で、需要を大幅に上回る穀物生産を達成しているのが現実だ。
食料不足どころか、世界の太り過ぎ人口は16億人に達している。そのうち4億人が肥満だ。15年には、この数がそれぞれ23億人と7億人に達すると推定(FAO)され、栄養不良人口8億人の3倍超になる見通しだ。過去40年間、人口増加率は189%に対し、穀物増産率は215%で、26%上回っている。過去3年(2003年から06年)でも、人類一人当たりの食料生産は4%増えた。FAOによれば、カロリーベースの食料供給は全人類一人あたり平均一日2800kcalに達しており、同機関は「普遍的な食料安全保障は届くところにある」と結論づける。
農業の水資源についての国際的なコンセンサスは、アジアでの水利用効率を高めることにある。世界の取水率の66%を占めるのに対し、穀物生産では44%しか貢献していないからだ。「アジアで水効率を10%高められれば、同じ水量で1億トン以上の増産を見込める」(ユネスコ)との推計もある。やみくもに水効率を上げて増産を目指すという結論ではない。英国政府のレポートにあるように、「需要の増加に対して、世界的な生産性の視野から採算がとれるよう、灌漑投資の効率を上げていくことが重要だ」
同じ視点から、天水農業の耕地面積を高めたほうが効率的だとの意見も多い。OECDとFAOの共同レポートによれば、天水農業に使える非農地は最大であと15億haあると推定される。2005年現在の農地面積50億haの3分の1弱の広さだ。もっとも悲観的な欧州環境庁(EEA)の推計で、同5000万haから4億haほど。その中間が、英国の再生可能燃料庁(RFA)の調べによる8億haから11億haである。
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浅川芳裕 アサカワヨシヒロ
農業ジャーナリスト
1974年山口県生まれ。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。アラビア語通訳、Sony Gulf(ドバイ)、Sony Maroc(カサブランカ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。元・SOGULマーケット専門官。元月刊『農業経営者』副編集長。現在ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。2010年2月に講談社より発行された著書『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラーになる。最新刊に『TPPで日本は世界1位の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』(KKベストセラーズ)がある。
農水捏造 食料自給率向上の罠
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