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近々、営業部も発足する予定だ。まだ2年目ながら、32歳の加賀城公司を専任スタッフとして抜擢する。冬になれば彼もまた、岩岳のスノーボード専用コースに戻っていく。
長野に「白馬」の蕎麦あり
じつは、津滝が最も熱く語ってくれたのが、起業直後から取り組んできた水田転作のソバだった。白馬の農業は観光とともに歩むべきという彼の信念は、ソバによって開眼されたといってよい。行政主導で組織された「白馬そばの里プロジェクト事業」が、その発端である。
田んぼが眠る冬場に、津滝は研究に怠りない。初年度の失敗から、日本一の供給量を誇る北海道の幌加内を視察し、ソバの価値を左右する乾燥技術のヒントを発見した。2年目からは、前年に買い叩かれた製粉業者をも唸らせるソバの実を完成させている。やがてその噂は、国内大手ソバ商社の社長の口から、老舗蕎麦店の耳に伝わることになる。全国に暖簾分けした系列店舗に白馬のソバが一気に広まり、一時問いあわせが殺到した。刮目すべきは、これが「信州」ではなく「白馬」ブランドだったことだ。
「国産のソバ粉といえば、けっきょく北海道になっちゃう。だから使い飽きてるんです。簡単な話で、相手が望むものを作ってあげれば買ってくれる。相手の要望に応えていくことで評価が高まり、ほかのものよりも競争力が増すんです。今では、ほかよりも値段が高いのに買ってくれますからね。同じように、白馬のスキー場やペンション、土産店の人たちも、どこにでもあるような食材を出すことに危機感をもち始めています。当たり前ですよ。たとえば秋田に行ったら、八郎潟のあきたこまちで作ったきりたんぽを食べたいじゃないですか。地元の農産物を大事にしないと、やがて自分たちの首を絞めることになると、彼らもようやく気づき始めてます」
夜のミーティングの席を借りて、若者たちに訊いてみた。「将来も続けて農業をやっていきたいという人は?」と。驚いたことに、ほとんどの若者が挙手した。そんな彼らを温かく見つめながら、津滝は再び目を細めるのだった。 (本文中敬称略)
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津滝俊幸 ツタキトシユキ
(有)ティーエム(しろうま農場)
代表取締役社長
1958年、長野県白馬村生れ。52歳。県立白馬高校卒業後、地元の流通関連企業に勤務。リゾート開発のコンサルタント業などを経て、片手間に農業をしながら独立。その後、農作業受託に関わったのを契機に本格的に農業の道へ入る。04年に@ティーエムを立ち上げて法人化、09年からは「しろうま農場」を社名の前面に押し出す。冬場は前年の事業の数値化と翌年のプランを練る一方で、「わかた館」の経営にも携わる。http://www.tm-hakuba.com
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