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それはそれとして、このロンドンの寿司屋の看板を見てやってください。その事業から3年も経過しているのに、事業効果まるでなしという証拠のような写真です。いずれも世界各国の料理が集うソーホー地区で撮影したものです。極めつけの写真1(38頁)は、この寿司屋の店構え。暖簾はいいとしても、畳に刺繍をしたような日本人形もどきの姿。中に入っていないので、これ以上、論評はできませんが、この店構えだけでいかにもという感じですね。
次いで写真2もご覧いただきたい。あの高砂親方を優しくデフォルメしたようなお相撲さんが、「食い放題」というボードを手にしています。これまた二の足を踏んでしまいそうな雰囲気ですね。窓越しに寿司の出来栄えをチェックしましたが、見ただけでも、シャリがかたそうでネタも干(ひ)からびているようでした。スシポリスなら、即刻逮捕ものではないでしょうか。
次に、高級百貨店「ハロッズ」に足を向けました(写真4)。1階の「フードホール」と呼ばれる食品売り場に寿司コーナーがあります。今のような寿司ブームのなかった10年前に、ここで寿司を食べたことがありました。そのとき、ちょっと驚いたことは、「えんがわ」がメニューに載っていたことでした。
えんがわ----ヒラメやカレイなどがヒレを動かす部位のことで、寿司屋では通常、ヒラメのえんがわのことを指しますが、ヒラメ一匹からとれる量が限られているので白身部分よりも価格が高いことがあります。老舗の寿司屋さんなら、その日の上客にさっとサービスで握るネタでもあります。最近は、回転寿司で単に「えんがわ」と表示されて安価で売られているネタは、ヒラメではなく、カラスガレイやアブラガレイ(カレイ目)といった代用魚のえんがわが使われているケースが多いのです。
それがロンドンでは、正真正銘のヒラメのえんがわが使われておりました。これにはワケがありまして、ロンドン名物に「ドーバー・ソウル」という人気のヒラメ料理があります。ドーバー海峡で獲れるヒラメは、激しい海流にもまれて脂がのり、身もしっかりとプリプリ状態。そのヒラメをムニエルにするため、ヒレ部分をカットして整形するのです。そのカットした部分は捨てていたのですが、これに日本人商社マンが目をつけて商品化したそうです。それでハロッズの寿司コーナーのメニューに取り入れられたという話を聞いたことがありました。
10年ぶりに訪れた、その寿司コーナー。すぐに雰囲気が違うなと直感しました。日本人の板前に、「オーナー代わったのかい」と聞きますと、その通りとの答えでした。今のオーナーは、フィリピン人とのことで、日本人は板前さんの2人だけ。愛くるしいフィリピン人女性が和服をデフォルメしたような制服を着ておりましたが、何やらランジェリー・ショーのような出で立ちでした。10年前に日本人オーナーがやっていた時代とはかなりの違和感がありました。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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