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3者両得に向けて努力する
これは何も大きな投資や商品開発に限定した話ではない。ダイコンをひとつ売るにしても同じだ。
あるスーパーで1本98円のダイコンを売っていたとしよう。通常、売られているものは、市場から入荷した葉っぱを切り落とされたむき出しのものだ。そこで、スーパーに、葉っぱを残して1本ずつビニールの袋に入れてラッピングし、和郷園のものであると記したダイコンを提案する。
「和郷園のダイコンを並べて展示すれば、お客さまにお店のこだわりが伝わるのではないでしょうか。産直品の葉つきダイコン、売値は158円です」と仕入担当者に掛け合う。そうすると、「一度やってみようか」という話になる。お店と協力関係ができると、担当者の方から、売場の情報を教えてくれるようになる。一日に売れるダイコンの本数や、来客数などだ。
和郷園はこれまで、消費者ニーズに向き合う取り引きを積み重ねてきた結果、販売データを蓄積している。来客数と顧客層をヒアリングできれば、販売本数の予測はおおかたつけられる。算出するには、和郷園独自にその地域の商圏人口や所得層などを調査した分析もつけくわえる。大袈裟にいえば、野菜販売のひとつの方程式みたいなものだ。
それをもとに「100本くらい売れそうだ」と予測できたら、「60本ぐらいから」と提案して契約にこぎつける。そして、和郷園の組合員農家はその数に対応したダイコンを生産する。スーパーに納品すると予想どおり、ほぼ完売する。それをみた担当者から「もう少し増やして80本にしてほしい」といった要望が出てくれば、契約を結び直し、生産供給をしていく。
そうして実績をつみあげながら、最初に予測した100本になることもあれば、ならないケースもある。いずれにせよ、こちらの予測や売りたい要望を一方的に押し付けるようなやり方はしない。売れ残ったときのお店のロスや、お客さんにとってお得感のある98円のダイコンのシェルフシェア(棚占有率)も考慮する。誠意をもって、お客、お店、生産者、3者にとってできるだけ適切な本数になるような契約に向けて努力する。
人として当たり前のことをシンプルに考え、素直に実行するのがプリンシプルだ。100本売れば和郷園が得するように見えても、現実は誰のプリンシプルにも合っていない。誰かが得をして誰かが損をするような事業はすべきではないし、してはならない。
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木内博一 キウチヒロカズ
(有)和郷、生産組合(農)和郷園
代表理事
1967年千葉県生まれ。農業者大学校卒業後、90年に就農。96年事業会社(有)和郷を、98年生産組合(株)和郷園を設立。生産・流通事業のほか、リサイクル事業や冷凍工場、カット・パッキングセンター、直営店舗の展開をすすめる。05年海外事業部を立ち上げ、タイでマンゴー、バナナの生産開始。07年日本から香港への輸出事業スタート。現在、ターゲット国を拡大準備中。起業わずか15年でグループ売上約50億円の農系企業を築き上げた木内氏の「和のマネジメントと郷の精神」。『農業経営者』での連載で、その“事業ビジョンの本質”を初めて明かす。
木内博一の和のマネジメントと郷の精神
起業わずか15年でグループ売上約50億円の農業ビジネスを築き上げた“農業界の革命児”木内博一。攻めの一手を極める氏の経営戦略と思考プロセスを毎月、明かしていく。
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