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田下によれば、牛1頭分(豚では4頭、鶏では150羽、人なら20人分に相当)の糞尿で一日約1立方メートルのガスをつくることができ、5人家族だと一日だいたい3~4立方メートルのガスがあれば、調理などはまかなえる。
プラントに投入した有機物は同体積の液肥を生じる。液肥は堆肥などにくらべて吸収が速く、しかも、発酵槽内は空気がないので寄生虫もいない。畜産と農業を両方手がける農家にとっては有用な設備になりうる。だが、冬場は発酵が進みにくかったり、維持管理が必要だったりするため、日本ではなかなか浸透しない。
田下は栽培技術にも多くの工夫をこらしている。その一つが天敵の利用である。
「薬を使わずに防除するとなると、虫が出る前に対処しなくてはなりません。アブラムシの天敵というと、ナナホシテントウが思い浮かびますが、自然界の中には季節によってさまざまな天敵がいます。アブラムシが大量に増える時期に合わせて天敵を呼び寄せるような工夫をすることが大切なのです」
そのために田下が行っているのが、バンカープランツを植える方法である。バンカープランツとは天敵を増やすバンク(銀行)であるとともに、害虫にとってのバンク(障壁)になる囮の植物という意味だ。ナスなどの育苗ハウスの中に10月にバンカープランツとして大麦をまくと、ムギクビレアブラムシが発生する。すると、冬にそれを食べに来る天敵のアブラバチがやってくる。ムギクビレアブラムシはイネ科にしかつかないので、となりにナスやキャベツがあっても被害はない。けれども、種類の異なるアブラムシがナスやキャベツにつくと、アブラバチがそちらも食べてくれるというわけである。
「今は、いろんな種類の天敵昆虫が外国から輸入されて売られています。けれども、自然界にはさまざまな天敵がすでにいる。天敵は外部から持ってきても、すぐにいなくなってしまう。大事なことは、季節ごとに、いろんな天敵が出てきやすい環境をつくってやることです。ここは里山で豊かな生物相があるため、いろんな天敵がいる。そのおかげで虫の被害があまり広がりません」
田下にとって有機栽培とは、たんなる思想や付加価値ではなく、植物の生理や生態系への深い理解にもとづいて農業を行うことなのだ。
市場に影響されない販売の仕組みを
現在、風の丘ファームでは独自のルートでの販売が7割、小川町有機農業生産グループによる共同出荷が3割である。10年くらい前までは、一般家庭向けに旬の野菜をセットにした商品が主力だった。注文に応じた売り方だと、どうしても余るものが出る。その分セットだとやりやすかった。しかし、顧客の側から見ると、あまり使わない野菜もあることから、一般家庭向けのセットが頭打ちになってきた。その一方で最近はレストランへの出荷が増えている。
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田下隆一 タシタリュウイチ
株式会社風の丘ファーム
代表取締役社長
1960年、東京生まれ。50歳。高校卒業後、北海道へ渡り酪農家で研修に入るが、資金不足から就農をあきらめ東京に戻る。1年半のサラリーマン生活を経て、埼玉県小川町の有機農家で研修生活に入り、1984年、24歳のときに小川町で独立。2008年、株式会社「風の丘ファーム」を設立。無農薬・有機栽培の野菜を全国50軒のレストランや一般家庭に出荷。加工品の販売や農業体験イベントも行い、有機農業による農業経営を担う後継者の育成に力を入れている。従業員9名。http://homepage3.nifty.com/tashita-farm/
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