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「東京、横浜、京都、大阪、神戸など50軒くらいに出荷しています。8~9割はイタリアンです。花が食べられるもの、色の変わったものなど、珍しい野菜がほしいという声が高いので、こちらもそれに合わせて新しい野菜を探して提案しています。これまでレストランのメインは肉と魚で、野菜は添え物でした。でも、メインのお客さんが50~60代の女性になってきて、野菜に注目が集まっている気がします」
田下は不特定多数に大量の品を売るのではなく、少数の人に一年を通じて買ってもらう仕組みをつくりたいと考えている。そこで股根になったニンジンをジュースにしたり、麦茶をつくったり、せんべいや乾麺をつくったりと加工品の製造と販売にも力を入れている。
田下が自分で直接売ることにこだわるのには理由がある。一つは、反応がダイレクトに返ってくることだ。市場へ出荷した場合、そのあと商品がどこへ行くかわからない。クレームはあっても、よかったという反応はまず返ってこない。しかし、レストランや直接取引のある顧客からは、「おいしかった」という反応が直接返ってくる。それがなによりの喜びであると田下はいう。
「農業の厳しさは、不作のときにしんどいのは仕方ないとしても、豊作のときに値段が下がって収入が上がらないシステムであることです。豊作のときには、少しはほめられたいし、お金も入らないと、モチベーションは上がりません。そうならなければ農業は栄えないと思います。独自の販路があれば、お客さんが必要としているものをつくることで、市場の価格の暴落などにあまり影響を受けずに出荷ができる」
お金を稼げる有機農業と人材の育成
順調に見える田下の農業経営だが、それでも有機農業で食べていくには、まだ多くのハードルがある。
「有機農業はあまり真剣にやるとお金にならないんです。儲けるには、数品目に絞って、あまり凝らずに有機資材を使ってというやり方をすればいいのですが、それでは面白くない。でも、循環を考えて、植え付け時期を変えて多品目をつくるという小川町の有機農業のやり方ではロスが多く、収量も上がりにくいので、経営的には楽ではありません。作業も多岐にわたるし、複雑です」
それでも田下は08年、農場の法人化に踏みきった。それは有機農業でも、しっかり食っていけるシステム作りをしなくてはと思ったからだ。
「有機農業をしたいという若い人はたくさんいます。そんな彼らをうちでもこの20年間研修生として受け入れてきました。彼らを研修し、雇用して、ちゃんと独立農家としてやっていけるような体制を整えて農業の後継者を育てたい」
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田下隆一 タシタリュウイチ
株式会社風の丘ファーム
代表取締役社長
1960年、東京生まれ。50歳。高校卒業後、北海道へ渡り酪農家で研修に入るが、資金不足から就農をあきらめ東京に戻る。1年半のサラリーマン生活を経て、埼玉県小川町の有機農家で研修生活に入り、1984年、24歳のときに小川町で独立。2008年、株式会社「風の丘ファーム」を設立。無農薬・有機栽培の野菜を全国50軒のレストランや一般家庭に出荷。加工品の販売や農業体験イベントも行い、有機農業による農業経営を担う後継者の育成に力を入れている。従業員9名。http://homepage3.nifty.com/tashita-farm/
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