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環境保全型農業で世論をリード!
ただ篠原さんとお話をしていて感心するのは、エコロジー(環境)にものすごく思い入れがある点だ。彼が、農水省農林水産政策研究所の所長時代に、環境活動家のレスター・ブラウン氏を招聘されたことがある。従来の農水官僚では、思いもよらない発想で、さすが篠原さんと秘かに拍手喝采をしたものである。
環境保全型農業、これは篠原さんの造語であると、ご本人がどこかの講で語っておられたのを講演録で拝見したことがある。今から30年も前のことで、その炯眼にはただただ敬服している。所長時代には、こんな講演もしておられたという話が、社団法人日本草地畜産種子協会の情報誌「グラス&シード」に紹介されていた。
「篠原孝所長は、アメリカからの輸入飼料の代わりに、日本のふん尿をアメリカに持って行けと、言っています。窒素の移動が輸出国と輸入国の環境を破壊する。これを正していかなければ、21世紀の日本の国土も、畜産もない。輸入飼料加工型畜産がこのままでいいかを、厳しく問う必要があるし、BSEは、あなた達のやっていることは間違いだと示したことを、知らなければと思います」
これをどう受け取られるかは、読者のご自由である。輸入飼料加工型畜産の是正は、筆者も共感するところがあるものの、篠原さんの考えにはあるところで引いてしまうような点がある。僭越を承知で一つだけ違和感を指摘させてもらうと、そのふん尿を移動するコストがどれだけかかり、誰が負担するか、という点である。エコロジー(環境)は、時常にエコノミー(経済)の裏打ちがなければ、単なる夢物語に終わってしまうことになる。こんなことを言ったら、篠原さんから大目玉を食らうかもしれない。
フード・マイレージ、この言葉も篠原さんが初めて導入されて、日本に定着されたと、ご自身のブログで語っておられる。農林水産政策研究所が、「相手国別の食料輸入量」に「輸送距離」を乗じた数値を、「フード・マイレージ」として提案され、その数値が大きければ大きいほど、海外に食料を頼っていることを示すだけでなく、それを運ぶエネルギー消費も多くなることを意味する。
有機農業の運動に熱心な方を中心に、この言葉はパッと拡がった。あたかもファッションのように拡がっていく動きをみていて。天の邪鬼な筆者は、日本列島は南北に長く、北海道より上海の方に近い西日本は、メード・イン・チャイナの農産物や食品を輸入しろという意味なのか、勘ぐってみたことがある。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
土門辛聞
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