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【木内博一の和のマネジメントと郷の精神】
年収75万円——「農業に未来はない」
- (有)和郷、生産組合(農)和郷園 代表理事 木内博一
- 第21回 2010年06月30日
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私が就農した時期、木内家は露地の畑作を中心の営農で、確定申告は白色申告だった。現在の個人農家では青色申告が主流だが、当時は白色申告も多かった。読者もご存じのとおり、その申告のやり方は昔ながらの実に大雑把なもの。「芋類」「稲類」などといった分類に分かれ、それらをどのくらいの面積で作っているのか申告するだけだった。
たとえば、○○類を10反作ったとしたら、「○○類は反当り平均10万円なので、売上は10反×10万円=100万円です」となる。このように、作物ごとに反当りの売上が決められており、鉛筆を舐めるように簡単に申告するわけだ。
この申告が何を意味するかといえば、多くの農家が農業では詳細な算出を必要とするほど売上が出せていなかったということだ。「売上」という概念さえなかったといってもいいかもしれない。何しろ現在でも「売上」という概念を持たない農家はたくさんいるとおりだ。
話を木内家に戻すと、私が継ぐということを知った近所の農家の人が、父にこう言った。
「そろそろ木内さんのところも、青色に変えてみてはどう」
その言い方がうちを小バカにしたような言い方だったので、父も面白くない。「うちも青色にすっぺ。お前がやれや」ということになり、私が青色申告をすることになった。
計算してみると、まず、家の売上が720万円であることが初めて分かった。ここから機械代や資材、種代などの経費を差し引いていくと、収入に該当する残りは約300万円。両親と祖母、私を合わせた4人で年収300万円、つまり一人当たり75万円でしかない。これが「農業=本業」の経営状態だった。
「これじゃ、まるでビジネスとして成立していない……」
父がよその手伝いなどをして別に400万円ほどの収入があったので、食っていくには困らない。しかし、そうはいっても両親も祖母も忙しく働いているのだし、たとえばこれがほかの業種だったらどうなのか。年収75万円で働いている人たちがいて、一年を通すと赤字になっている会社のようなものだ。
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木内博一 キウチヒロカズ
(有)和郷、生産組合(農)和郷園
代表理事
1967年千葉県生まれ。農業者大学校卒業後、90年に就農。96年事業会社(有)和郷を、98年生産組合(株)和郷園を設立。生産・流通事業のほか、リサイクル事業や冷凍工場、カット・パッキングセンター、直営店舗の展開をすすめる。05年海外事業部を立ち上げ、タイでマンゴー、バナナの生産開始。07年日本から香港への輸出事業スタート。現在、ターゲット国を拡大準備中。起業わずか15年でグループ売上約50億円の農系企業を築き上げた木内氏の「和のマネジメントと郷の精神」。『農業経営者』での連載で、その“事業ビジョンの本質”を初めて明かす。
木内博一の和のマネジメントと郷の精神
起業わずか15年でグループ売上約50億円の農業ビジネスを築き上げた“農業界の革命児”木内博一。攻めの一手を極める氏の経営戦略と思考プロセスを毎月、明かしていく。
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