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【江刺の稲】
本誌の内容に対する声をお聞かせ下さい
- 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
- 第173回 2010年07月30日
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創刊号以来の親しい読者から、「『農業経営者』は昔のほうが良かった」とのご指摘あるいはご批判をいただいた。
本誌は2004年6月号で、101号目という区切りを迎えて誌面を大幅にリニューアルした。その時に考えたリニューアルの意図は次の点だった。
農業を取り巻く環境は、本誌が主張してきたことを追認するがごとく変化してきている。もう「農業は食べる者のためにある」などという当たり前のことをことさらに語らずとも良い時代になった。かつて本誌は、「自給自足の時代には家族のために耕作や狩りをしたかもしれないが、耕作や狩りを続けるために家族を必要としただろうか。しかし、農業界は『農業を守るために消費者よコメを食え!国産農産物を食え!』と主張している」と、農業界にはびこる論理を批判してきた。そして「顧客たる消費者に必要とされて成立する農業と、その経営創造への取り組みこそが農業が守られる根拠であり、農業経営者たちは被害者意識から農政や農協あるいは取引先を批判する以上に、自らの経営を確立することこそが肝要なのだ。『問うべきは我』である」と主張してきた。さらに「農業問題とは農業関係者問題である」といって、本誌自身を含めた農業関係者による“居場所作り”が農業の重荷になっていることを指摘してきた。が、それも否応なしに行政改革や農協改革の中で進んでいくだろう。補助金農業が終わりを告げれば、農業関連企業とて同様である。
そして、創刊当時から勧めてきた契約栽培や食関連産業との連携について、かつては「『農業経営者』は農業インテグレートを目論む企業の手先である」などという批判を受けていた。それでも本誌では「目線の揃う異業種が理念と技術知識を共有しよう」という呼びかけとともに、その斡旋も行なってきたのである。それももう、農業をフードシステムの中に位置付けて考えようという議論が当たり前のように語られる時代になった。
さらに、創刊当時には『農業経営者』というタイトルを見ただけで「それは自分の儲けだけを考える自分勝手な人々の雑誌か?」という中傷を受けたものだが、今では農業経営者という言葉も当たり前に通じるようになった。
そうなのだ。これまでの文脈、いわば新時代の農業あるいは農業経営者という存在を卵から孵す孵卵器としての本誌の役割はそろそろ役目を終えようとしている。
04年の本誌リニューアルとは、そんな思いをこめて行なった。さらにその後には、読者セミナーの定例開催やメード・バイ・ジャパニーズを進めるための取り組みも進めてきた。時代に合わせて『アグリズム』も創刊した。それを僕は本誌の進化だと考えている。このほか食料自給率論の批判など、日本農業の革新に対する提言も評価を受けるようになった。ただし、反省もある。それは創刊当時より本誌の人気コーナーであった農業機械を中心とする商品技術情報のパワーダウンである。それに関しては、あらためて技術情報の強化を進めていく。
それでも、本誌は農業経営者のためにある雑誌である。皆様のご期待に沿えるべく、皆様からのご要望をお聞かせ願いたいと思う。そして、本誌の編集に次世代の読者やスタッフの意見を反映させていく。そんな新しい『農業経営者』をこれからもご愛読いただきたい。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
江刺の稲
「江刺の稲」とは、用排水路に手刺しされ、そのまま育った稲。全く管理されていないこの稲が、手をかけて育てた畦の内側の稲より立派な成長を見せている。「江刺の稲」の存在は、我々に何を教えるのか。土と自然の不思議から農業と経営の可能性を考えたい。
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