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【過剰の対策、欠乏の克服】
生産力が衰える北海道の土
- 農業コンサルタント 関祐二
- 第74回 2010年07月30日
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今年の春、北海道の新千歳空港からほど近い場所にある南幌町、栗山町、むかわ町、長沼町などの農業経営者が集り、「SSH」(Soil Science Hokkaidoの頭文字)という土壌研究会を立ち上げました。
彼らは、土壌とはそもそもどんな物質で、どんな機能を持っているのかといった基本から学び直しています。メンバー各自が科学的な根拠にもとづいた処置方法を判断できるようになり、自分の圃場だけでなく、ほかの人の圃場についてもきちんと説明できる人を育てるためです。
ここでは「土づくり」などという、何をしたらよいのか分からない表現は出てきません。メンバーの年齢層は若いのですが、コスト意識をしっかり持っており、何を何キロ入れればよいというような単純指導にも首を縦に振りません。施用する理由を深く厳しく突き詰めます。施用量を導き出す計算式も分かっており、その知識を実際の現場に生かすことができる人たちです。
そんな彼らと半年近く実態調査を進める中で、顔が青ざめるような土壌分析データをいくつも目にしました。どうやら現在の北海道の土には危険信号が点滅しているようです。しかし、まだ手遅れではありません。何とか修復できる範囲です。
そこで今回は、明治の開拓以来、北海道の土が現在の土壌になるまでにたどった経緯と必要な対策についてお伝えします。
自然に蓄積された地力で維持してきた生産力
人の手がまったく入っていない原始林、原野の時代の北海道では、恵まれた雨量によって木々が育ち、ススキのような草もよく茂っていました。それらが供給する有機物によって土の表層に腐植層ができることで、森林土壌や原野の土は安定した状態にありました。
ここに入植した明治の開拓団は、木を切り、笹の根を掘り取り、礫を運び出すなど、多大な苦労の末に畑をつくったはずです。この時代の人びとを苦しめたのは、土壌改良資材のない状況下での火山灰土、泥炭土、そして悪名高い疑似グライ土でした。特に、疑似グライ土については、今でもその難題を解決できないでいます。
ともあれ、こうして開畑されたことで土壌に蓄積していた天然由来の腐植は、なかば強制的に分解されて栄養分を放出します。つまり、分解がある極限に達するまで作物は育ちます。開墾前に自生していた雑木類の根の跡も、このとき排水の水みちとして機能したと考えられます。
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関祐二 セキユウジ
農業コンサルタント
1953年静岡県生まれ。東京農業大学において実践的な土壌学にふれる。75年より農業を営む。営農を続ける中、実際の農業の現場において土壌・肥料の知識がいかに不足しているかを知り、民間にも実践的な農業技術を伝播すべく、84年より土壌・肥料を中心とした農業コンサルタントを始める。 〒421-0411静岡県牧之原市坂口92 電話番号0548-29-0215
過剰の対策、欠乏の克服
「土壌診断」という言葉は農業界に浸透し、多くの人がその必要性を感じているものの、調査は専門機関に委ね、その処方に基づいた施肥を行なってきたのが現状だ。ここでは現場で農業者が主体となって行なう土壌調査と診断方法について紹介していく。
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