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【農水捏造 食料自給率向上の罠】
「輸入が増えても、主食米の自給率は永遠に100%」(農水省)の二重詐欺
- 農業ジャーナリスト 浅川芳裕
- 第23回 2010年08月31日
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食料自給率が3年ぶりに40%に下落したとの報道がマスコミを賑わした。「コメ消費量」が減ったことが原因とされるが、主食用米の自給率は100%のままである。この裏には二重の詐欺が隠されていた。
農水省は「2009年度の食料自給率」を8月10日、発表した。翌朝の全国各紙には以下のような見出しが躍った。
「食料自給率40%に低下」
「41%から3年ぶりに悪化」
「コメ消費量が最低」
「50年で半減、1人58kg」
「コメ消費拡大への後押しを」
ここから分かることは、3つ。まず、自給率が3年ぶりに41%から40%下がった。次に、コメの消費量が下がった主な理由である。そして、自給率を上げるには、コメの消費拡大が重要だということだ。
たしかに、農水省の記者発表資料のとおりだ。「国民一人当たりのコメ消費量が59kgから58.5kgへ」とわざわざ特記してある。下がった原因について、記者が簡単に記事を書けるための農水省の親心だ。記者会見では、山田正彦農相も自給率低下を受けて「コメの消費が思いのほか落ち込んでいる。総合的な政策で対応したい」と、とくにコメの消費拡大を強調した。
しかし、本連載を最初からお読みの読者なら、記者が農水省の罠に嵌められていることがお分かりだろう。
農水省の食料自給率計算式は、「食料の国産供給カロリー÷食料の国内総供給(国内生産量+輸入量─輸出量)カロリー×100」である。分子は、消費量を示しているわけではない。国産供給カロリーとは、国内生産量をカロリー換算したものだ。つまり、自給率は生産量が増えれば上がるし、減れば下がる。または、分母の輸入量が減れば、生産量が増えなくても自給率が上がる。国産のコメ消費量が増えた減ったの話ではない。
コメ消費拡大と自給率は無関係
一体、農水省のいう消費量とは何か。国内生産量ではなく、純食料のことだ。これは、国内消費仕向量(国内生産量+輸入量─輸出量─在庫増または+在庫減)から、飼料用、種子用、加工用、減耗量を引き、精米換算した量を人口で割って計算される。つまり、輸入を含む一人当たり供給量である。純食料は本来、FAO(国連食糧農業機関)が各国の国民の栄養水準をみることを目的に加盟国政府に作成を求めるものだ。我が国ではなぜか、この量を増やすのをマスコミも一体となって、「コメの消費拡大による自給率向上」と勘違いしている。純食料は定義上、国産かどうかは全く関係ない。
実際、この「消費量」を本気で増やしたいなら、関税をなくして、売れる外米を安く輸入するのが一番てっとりばやいだろうが、向上を目指しているはずの自給率は下がる矛盾に直面する。
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浅川芳裕 アサカワヨシヒロ
農業ジャーナリスト
1974年山口県生まれ。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。アラビア語通訳、Sony Gulf(ドバイ)、Sony Maroc(カサブランカ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。元・SOGULマーケット専門官。元月刊『農業経営者』副編集長。現在ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。2010年2月に講談社より発行された著書『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラーになる。最新刊に『TPPで日本は世界1位の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』(KKベストセラーズ)がある。
農水捏造 食料自給率向上の罠
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