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【新・農業経営者ルポ】
市場競争が咲かせた減反圃場のユリの花
- 岩船地域農業生産組織連絡協議会 会長 本間茂雄
- 第77回 2010年09月29日
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新潟市の北東約60kmに位置する関川村は、豪農の館で知られる国の重要文化財「渡辺邸」など、古い町並みが残る静かな河畔の里である。村の中央には清流、荒川が流れているが、かつて羽越豪雨によって氾濫し、村に大洪水をもたらした文字通りの暴れ川でもある。
この荒川のほとりに居を構える本間茂雄は、妻・淳子と長男・健太郎、義母・チヅの4人暮らし。亡くなった父の本業は大工で、職人気質の兼業農家に生まれ育った。
現在は8haの水田で特別栽培米を栽培し、このほかユリの切花を年間7万本生産している。全体の10分の1ほどの圃場面積を占めるに過ぎないユリだが、年間売上は2800万円を超え、コメの売上を上回る。コメについては、消費者の声を聞き、それを生産現場に活かしたいとの思いから、JAではなく米穀店に販売している。
新潟産コシヒカリの銘柄問題に疑問を抱く
本間は5年前に突然起こった事件について、今でも納得がいかないと言う。当時、本誌連載コラム「土門辛聞」でも取り上げられて反響を呼んだ、「新潟産コシヒカリの銘柄問題」である。新潟県と地元のJAにより、新品種コシヒカリBLへの全面作付転換が強制されたのは2005年のことだった。コシヒカリBLとは、いもち病の抵抗性を高めるために戻し交配を行なって、品種を改良したものである。いもち病の農薬使用量を抑えることで、コスト削減と消費者への安心感をアピールすることを目指したが、拙速で独善的な導入姿勢に批判が巻き起こった。新潟県やJAは、生産者に対してコシヒカリBL以外の種籾の販売を中止し、既存のコシヒカリは一般米として安い単価で扱う方針を決め、一方的な作付転換を押し付けたのである。新潟県は、食味試験の結果からいもち病抵抗性を除く品種特性はコシヒカリと実用上同一だと主張しているが、食味に関しては現在でも異論が出ている。
「この周辺では、技術力があればいもち病はそれほど多くは発生しないんですよ。荒川の水で育まれたコシヒカリは昔から関西を中心に人気があって、新潟県のコシヒカリの食味向上に貢献してきたという自負があるんです。自分が判断して好きなものを生産できないなんて考えられないですよ」
そう語る本間は、通常のコシヒカリの種籾を富山県から取り寄せ、特別栽培米として全量を独自ルートで販売している。
米穀卸に届く玄米の袋には、「JA米」という印が押されてコシヒカリBLだとわかるが、販売用の米袋にはコシヒカリとだけ表示されて販売され続けている。08年に公表された「新潟米ブランドの強化に関する検討会」の総括報告書では、次のように締めくくられている。
「BLに対する消費者の理解が十分に浸透していないことから、05年産から一斉に切り替わったことや農薬を大幅に削減して栽培できる優位性を一層周知していく必要がある」
全農新潟県本部米穀部に問い合わせると、09年5月から、従来のコシヒカリとコシヒカリBLの区別をするために、「新潟オリジナルコシヒカリ」という新たなロゴマークを作成して使用承認制度を始めているという。だが10年8月時点でも登録事業者はわずか17件で、さらにその中で新潟県以外で申請している事業者は東京都と愛知県に1件ずつあるに過ぎない。ほとんどの消費者が、未だに既存の新潟コシヒカリとコシヒカリBLを区別することができない状態が続いているのである。食品表示の偽装問題が後を絶たない中、消費者に対して不誠実極まりない愚策だと批判されて当然だろう。
大規模経営を進めにくい地域や、技術力に自信が持てない農家の場合、県やJAのご都合主義に従わざるを得なくなり、消費者不在の作付計画の実行を余儀なくされたり、転作補助金を当て込んだ安易な道を選びがちである。しかし、技術力を磨き、マーケットを見定め、作りたい作物で勝負しなければ、本当に儲かる農業は実現できないはずだ。
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本間茂雄 ホンマシゲオ
岩船地域農業生産組織連絡協議会
会長
1957年、新潟県関川村生まれ。地元高校を卒業後、茨城県水戸市の鯉淵学園(現鯉淵学園農業栄養専門学校)に進学。その後、自転車旅行をしながら有機栽培農家を訪ね歩く。帰郷後、24歳で製材所に就職すると同時に結婚。1997年、16年間務めた製材所を退職して専業農家になる。2年前より長男・健太郎(27歳)が就農。10haの圃場のうち、水田8haで特別栽培米を、残りの2haでユリ切花や山菜などを生産する。ユリの年間売上は2,800万円を超える。あらかわ切花部会長。
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