ナビゲーションを飛ばす



記事閲覧

  • このエントリーをはてなブックマークに追加はてな
  • mixiチェック

特集

「奇跡のリンゴ」は、なぜ売れたのか〜「木村秋則」現象を追う〜

“日本で一番有名な農家”は、たぶん無農薬・無肥料でリンゴを栽培している青森県岩木町の木村秋則氏だろう。2006年にNHKの番組で紹介されてブレイクした後、26万部のベストセラーとなった『奇跡のリンゴ』を筆頭に、何冊も本が出ている。農家・非農家を問わず、これほど人々を惹きつけている「木村秋則」現象の実態とは何か? 取材・文/編集部、鈴木 工

introduction 本誌読者にアンケート 「木村秋則」現象に思うことは?

農業に関わる読者諸兄としては、やはり気になる存在。本誌読者の間で木村秋則氏の
本がどれだけ読まれているか、どう感じているのか、賛否両論のコメントを集計してみた。

 もし“日本で一番有名な農家”を選ぶとしたら、それはたぶん無農薬・無肥料でリンゴを栽培している青森県岩木町の木村秋則氏だろう。2006年にNHKの番組で紹介されてブレイクした後、26万部のベストセラーとなった『奇跡のリンゴ』を筆頭に、何冊も本が出ている。講演会は満席で、同氏に着想した映画が封切られ、最近では演劇にまでなっているらしい。これほど人々を惹きつけている「木村秋則」現象の実態とは何なのだろうか。

 『奇跡のリンゴ』は普通のリンゴ農家だった木村氏が無農薬で栽培することを決めて、農薬散布をやめることから物語が始まる。その後、8年にも及ぶ試行錯誤があり、その間農薬に代替するものを探し続けたが見つからず、収穫はゼロ。自分勝手な挑戦を死んで詫びようと、ロープを持って山に分け入る。そこで偶然、虫の被害もなく、見事な枝を張り、葉を茂らせたドングリの木に天啓を得て、この土を畑で再現すればいいのだと気付く、という話だ。

 同氏はその経験から「自然栽培」という農法を提唱している。福岡正信氏の「自然農法」に名前が似ているのは、そこから着想を得た経緯があるらしい。無農薬・無肥料であることが特徴の一つだ。

 今回、本誌読者の間で木村秋則氏の本がどれだけ読まれているか、また、そもそも「自然農法(当初は編集部も自然栽培と混同していた)」をどう感じているのかファックスによるアンケートを実施した。21ページにその質問内容と、44人の読者から得られた回答を集計した。


■回答者の55%が既読やはり気になる存在

 これを見ると、過半数55%の読者が何らかの木村秋則氏の本を読んでいる。最も読まれているのは『奇跡のリンゴ』(石川拓治=著、幻冬舎)でダントツ。そして『リンゴが教えてくれたこと』(木村秋則=著、日経プレミアシリーズ)が続く。

 本に関するコメントには、農業者としての姿勢についての意見と、物語として捉えた感想が寄せられた。「自然を受け入れて、自然に沿ったように作目を作る姿がすばらしい」(山形県・M氏・農協職員)「自然観察については他の人の何倍もの力がある様に思う」(福井県・K氏・農業者)と共感の声も多い。

 もっと深く興味を持っている読者からは「経過は若干、オカルト的な要素があるが、実際に圃場に行って畑を見て樹を見て感じた事は、土壌中の糸状菌群が非常に多いこと、それによって、樹自体に“自然治癒力”備わってきているのではと思いました」(山形県・S氏・農業者)という報告、また「農業技術への取り組み方、特に動植物に対する観察眼には非常に共感できますし、見習わなければならないと思います。また、結果的には、商品のPR、及び“自分を売る”マーケティング方法が上手」(埼玉県・U氏・農業者)という見方もあるようだ。

 その一方で、農業者としての姿勢に疑問を投げかける意見もあった。「根に関心を持つのに10年くらいかかったらしい。それが、プロから見れば“?”だし、遅すぎるのではないか」(岐阜県・S氏・農業者)「収量が少なすぎて、プロ向けではありません。剪定技術がデタラメでした。あまりおいしくない」(東京都・S氏・青果物流通業)という辛口の意見も。


■自然は安全なのか一人歩きするイメージ

 さて技術として「自然農法」はどうなのだろうか?「自然農法というと何もしない自然に任せるというようなイメージがありますが、土壌微生物など科学的な裏付けがあると思われるので、その部分の解説が必要」(岩手県・N氏・公務員)「自然農法とか有機農法は、技術ではなく昔からの生き方や思想なので、農業という産業とは別なものということを前提に話を進めるべき」(東京都・A氏・コンサルタント)「自然農法自体は古くからある、又は、地域によって守られてきた農法。現在の農法の対極にある農法であるように思われていますが、すべての農法のベースにある、基本だと思います」(山形県・S氏・農業者)と議論が分かれた。

関連記事

powered by weblio