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特集

「奇跡のリンゴ」は、なぜ売れたのか〜「木村秋則」現象を追う〜


 私は木村秋則氏という方に会ったことはない。ただ、氏について書かれた本が飛ぶように売れていると聞き、実際に読んでみたとき、まっさきに連想したのは、これまで何度も見てきた農法ショック発生の現場であり、農法ショックにとりつかれた人々の頑迷な言動だった。あれと同じことが、メディアで再現されていると感じたのだ。そして、改めて次のように考えさせられた。

 人は、人の心と行動に影響を与える宿命と権利を持っている。まして、農家とマスコミは、人の心の有り様を変え得る恐るべき力を簡単に発揮し得る。であればこそ、誰しも善良な目標と良質な知識を持って、公明正大に行動すべきだ。この仕事は、邪気がないというだけですべてが許されるものではない。少なくとも、やっていることや伝えようとする価値の核心が、学校で教えることや法律に定めていることとがあるようでは困る。


さいとう・さとし●1964年北海道生まれ。中央大学文学部卒業。『月刊食堂』『日経レストラン』などの記者から本誌副編集長を経て、現在フリーランスのライター兼編集者。外食、食品の分野を中心に、ビジネス誌やWebサイトに記事を執筆している。

PART3 技術 なぜ病気が減っていくのか、今の科学では説明できない。

「無農薬・無肥料」という農学の枠組みから捕らえていると、木村秋則氏の「自然栽培」の本質を見失うかもしれない。生態学の視点が今、彼の農法に可能性を見出している。

■福岡正信氏の自然農法とはかなり違う

 「有機農法、自然農法、自然栽培と、それぞれ実体はかなり違う」と解説するのは弘前大学農学生命科学部教授の杉山修一氏だ。農学と生態学の2つを専門分野に持っている彼は、科学者として木村秋則氏の「自然栽培」に大きな可能性を感じている。

 「そもそも近代的な農業技術とは、化学肥料を外部から投与して作物に養分を供給し、農薬で作物以外の生物を排除することで、高い生産効率を可能にしている。化学肥料や農薬という人間が合成して作りあげた、自然界にないものを農地に投入するシステム」と杉山氏は表現する。

 では有機農業とは、何だろうか。「有機農業も不足を投入する考えかたは同じ。でも、自然界にあるものを投入する。だから例えば化学肥料ではなく堆肥を投入する。さらに端的な例が、有機農業で認められているボルドー液。硫酸銅と石灰は両方とも自然界にある鉱物だから、入れてもいいと考える」というわけだ。

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