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特集

「奇跡のリンゴ」は、なぜ売れたのか〜「木村秋則」現象を追う〜


 そもそも杉山氏が科学者として、木村氏の「自然栽培」に可能性を感じる理由の一つは、そこに今の科学で説明できない現象があるからだ。

 「まず、彼のリンゴが病気にかかってもそれが蔓延しない理由、これが今の農学では説明できない。昔は農薬を撒かなければ病気になって、病気になれば死ぬというのが普通の考えだった。しかも、同じ遺伝的な組成の『ふじ』なのに、自然栽培を続けていると、最初は病気にかかっていたのに、だんだんかからなくなっていく。これも説明できない」

今までの農学では作物が病気に強い弱いというのは、ほとんど遺伝的なメカニズムで決まっているとされていた。作物の生体膜上にある病原菌を認識するレセプターの構造が、病原菌のレースと合うかどうかだ。レセプターをくぐりぬけて病原菌が作物内に繁殖すると病気になる。
 だから作物を病気から守りたければ、遺伝的に耐病性がある品種を植えるか、殺菌剤を撒いて病原菌を殺すか、主にその2つしかなかった。ところが木村氏のリンゴ園で杉山氏が観察したことは、この2つだけでは説明できない。

 「とはいえ生物学の先端研究では、植物にも自然免疫のようなものがあるのではないかと言われている。また内生菌などの微生物が、作物の根や葉に棲むことで病気にかかりにくくなるという報告もある。そういう先端研究と、木村氏のリンゴに病気が蔓延しないことと通じるものがあるかもしれない。だから研究対象として興味深い」というわけだ。


■自然のままではなくほどほどに撹乱する技術

 化学肥料や農薬の使用をやめると、農地の生物多様性は豊かになる。それは使用していた殺菌剤が、仮に特定の細菌へのごく狭い選択毒性のあるものだったとしても、微生物の世界は繋がっており、どれかの細菌が少なくなったことは、生態系全体に影響するからだ。微生物もお互いに競争して遷移しており、その変化はまだ科学的に十分研究されていないが、たぶんものすごく大きなものだと杉山氏は熱を込める。

 「おそらく木村氏はそのあたりを、勘でわかったうえで、畑の管理をしているのではないか」というのが杉山氏の考えだ。

 これは生態学の「撹乱」という概念で説明することができる。実は、自然のままにして人間が手を加えなければ、豊かな生物相ができるのかというと、そうでもない。むしろ自然のままに放置すると貧弱な生態系、つまり生産性が悪い状態になってしまうのだ。

 「例えば白神山地のブナ林。放っておくと最後には、難分解性のタンニンを含む葉をつくる植物が優占する。虫も食べないし、微生物も分解しにくい。すると循環が進まないので養分を必要とする生物は入れなくなる。だからそういう状態を人為的に崩し、窒素固定するマメ科植物を植えたり、多様な作物を植えたりすることで、成長の早い作物も成長できる生産性の高い環境が作れる」

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