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【江刺の稲】
今、わが社にインターン生が来ている
- 『農業経営者』編集長 農業技術通信社 代表取締役社長 昆吉則
- 第175回 2010年09月29日
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今、わが社では7人のインターン生が半年の契約で仕事をしている。先週末、彼らを立ち飲み屋に誘った。彼らは今春に大学を卒業したが、望む就職先を得られなかった青年たちだ。就職できなかったからといって、国が収入と社会人としてのトレーニングのチャンスを与えてくれるというのは、まことに恵まれた社会の住人というべきだろう。仕事を選ばなかったら職に就くことができなかったわけではないのだろうが、就職難であることは事実のようだ。
もっとも、わが社も彼らを受け入れることで一定額の補助金が与えられるわけで、僕自身その恩恵にあずかっているわけだ。なんだ、補助金嫌いのお前も同じ穴のむじなじゃないかと言われそうだが、その通りである。しかし、もし僕が今の時代に就職先を求めていたら、きっと職を得ることができず、しかも彼らのようにインターンに応募することもなく暮らしになっていたかもしれない。実際問題、今の経済社会、あるいは企業は人を育てるということの意義に鈍感過ぎるようにも思える。その意味で、国は余計なことをするなということを言い続ける僕も、この制度をよくやったと思っている。
7名のインターン生はそれぞれに仕事を与えられ、週1回開かれる全体会議にも出席する。別室で仕事をしているためにあまり姿を見ることはないのだが、毎日の日報を提出し、担当者のチェックを受けている。僕の若い時代と比べてみれば、とてもまじめに仕事をしているようだ。
そんな彼らと立ち飲み屋に行ったのだ。彼らに何かの薫陶を与えようなんてことより、僕の酒につき合わせただけである。たくさんの若者を連れてきたので、立ち飲み屋の夫婦はご機嫌であった。
最初は遠慮がちであった彼ら。酒を飲まず、「僕はウーロン茶にします」などと殊勝なことを言う者もいる。真面目なのである。でも、そういった彼も、「やっぱりチューハイいただきます」なんて僕のペースに乗ってくる。話をしていくと、それぞれに個性を持ち、それなりに人生への意欲も意見も持っている。
酒が進むにつれて僕が彼らに話していたのは、“人生なんて思い通りにいかないことが当たり前”ということだった。彼らに説教するというより、僕自身に向かって言っていた。
「いいか、人生のドアなんて向こうから開いてくれることなんかない。それどころか一生懸命開こうとしても開かないのが普通。だから思い通りにいかないことが当たり前だとわかれば、今の君たちなんてちっとも不運なんかじゃないよ。でもな、ドアが開かなくても、壁を乗り越えていくくらいのヤンチャさを持てばよいのだよ。そして、飯を食うために働くのだから、つまらなくても我慢しろ。あまり難しく頭で考えるんじゃないよ。頭で考えることなんてほとんど世間や人の受け売りだから」
そのあとに言ったのは、活字にすることがはばかられる言葉も含まれるので字にはしないが、難しく考えるな、自分で面白がって大真面目に生きていけばよいのだというようなことを言ったと思う。
だんだん酩酊してくる僕にもかかわらず、神妙に話を聞く彼らを見ながら、こんな社長の下で初めての社会体験をしている彼らに、わが社でインターンをしている間だけでも、楽しい時間を過ごさせてやりたいと思った。どうせこれからの人生は苦労の連続のはず。であればこそ苦労を面白がって買って出る人間になってほしいから。
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昆吉則 コンキチノリ
『農業経営者』編集長
農業技術通信社 代表取締役社長
1949年神奈川県生まれ。1984年農業全般をテーマとする編集プロダクション「農業技術通信社」を創業。1993年『農業経営者』創刊。「農業は食べる人のためにある」という理念のもと、農産物のエンドユーザー=消費者のためになる農業技術・商品・経営の情報を発信している。2006年より内閣府規制改革会議農業専門委員。
江刺の稲
「江刺の稲」とは、用排水路に手刺しされ、そのまま育った稲。全く管理されていないこの稲が、手をかけて育てた畦の内側の稲より立派な成長を見せている。「江刺の稲」の存在は、我々に何を教えるのか。土と自然の不思議から農業と経営の可能性を考えたい。
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