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【土門「辛」聞】
ついにパンドラの箱が開いてしまった、農協米破綻
- 土門剛
- 第75回 2010年09月29日
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質問「全農が概算金を大幅に下げた狙いは何か」
土門「全農や農協が抱える大量の在庫米が原因だ。前年並みの概算金を出していたら、全農米穀事業も農協も在庫圧力で確実にパンクしてしまい、背に腹は代えられないということで概算金を大きく下げてきたわけだ」
質問「そこまで深刻なのか」
土門「危機的状況だ。まず在庫状況から説明する。どれだけ在庫があるかを知ってもらうため、2010年6月末の在庫量を平成21年産の生産量で割ってみた。もっとも多く在庫を抱えている岩手県の場合は42.7%、秋田も40.5%だ。一気に在庫を解消しようとすれば、23年産は7割減反くらい実施しないと在庫は減らない数字だ。岩手ほどではないが、福島以外の東北各県は軒並み30%台である」
質問「県によって数字が違うのはどうしてか」
土門「基本的には、販売面で全農に頼り切っている県と、そうでない県の差が出たと思う。新潟も、どちらかと言えば全農依存県だが21年産のコシヒカリが品不足だったのと、外食などへ安値で押し込んだことから、このような数字になったようだ」
質問「それにしても東北各県の在庫率が多いね」
土門「競争がないから、こんな差になったようだ。新潟や福島には商人系業者が多く、農協と激しい競争を演じている。象徴的なのは、岩手だ。この県には事実上、商人系業者が不在という状況がある。宮城や秋田なども、ほぼこれに似ている。商人系業者がいて競争の激しい新潟や福島は、全農も熱心に売り込むが、競争のない県は、その熱意があまり示されず、結局、このような無様な数字に表れているといったところだ」
差損埋め合わせで概算金大幅ダウンに
質問「9月15日、全中は政府に緊急の米価下落対策を求める提言をまとめた。その中で21年産米の販売不振や22年産米の豊作などで大量の過剰米が発生する恐れがあるとして、政府に備蓄米買い上げの前倒しなどを強く要望しているが」
土門「その要望書を読んだが、笑ってしまった。21年産米の販売不振は全農・農協の仕入れの失敗でしかないのに、それをどうして政府に助けてくれと言えるのか。頭を冷やしてよく考えてみることだ。それに22年産は決して豊作ではない。自らの責任を棚上げにして「豊作」を根拠に買い上げを要求するとは、開いた口が塞がらない。もし豊作でないと判明したら、根拠がなくなるわけで、かえってやぶ蛇になると思う」
質問「緊急買い上げの効果はあるのか」
土門「政府は、07年秋に、自民党農政族と農協組織の圧力に屈し、800億円もかけて34万tを緊急買い上げさせられた。効果があるなら、2年も経たずに同じようなことが起きるはずがない。緊急買い上げをしても、効果は2年も持たず、またもや大過剰を招くことになり、税金の無駄遣いになるだけだ」
質問「過剰米の解決策とは」
土門「ハード・ランディングしかない。ドッス~ンと着陸することをハード・ランディングと呼び、その反対にソフト・ランディングは、旅客機が羽のようなタッチで着陸することを意味する。こういう場合に使われるハード・ランディングとは、政府が過剰米処理で全農や農協を安易に助けないことである。その方が全農や農協のためにもなると思う。ハード・ランディングさせて一気に構造改革した方が農協米流通のためにも絶対にプラスになる」
質問「構造改革とは何か」
土門「コメが過剰になるのは農家の数が多いからだ。その数を減らせば過剰問題も解決するという考え方だ」
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
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