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農水捏造 食料自給率向上の罠

「食料安全保障の機密上明かせない」舞台裏、二つの自給率計算式が明かす謎

「日本の自給率は100%を超えません」と農水省は説明するが、同省が発表する諸外国の自給率は100%を超えている。干ばつで打撃を受けたと報じられたロシアの小麦の減産率は16%を超えるというが、昨年、日本の小麦生産量が激減したことは知られていない。「カロリーベース自給率」を国策にする弊害が表面化してきている。

 農水省が日本の「カロリーベース食料自給率」と比較する諸外国の自給率は、各国が計算したものではなく、同省の独自計算である。そして、そもそも自給率を発表している国は日本だけである、との事実は本連載の初回に記した通りだ。

 とはいえ、日本政府の公式統計であることには変わりない。であれば、独自計算する他国の自給率は日本の自給率の計算と同じルールで行なっているはずだ。そうでなければ比較にならないから当然のことだ。しかし、どうもそれが違うのである。

 前号でお伝えした通り、農水省は「日本の自給率は100%を超えません。食料供給のうちどれだけ国産で賄えるかの指標ですから、最大で100%」と説明する。「計算式上、絶対超えることはない」という。だが、海外の自給率は100%を超えている。なぜ、日本だけが、「100%を超えることはない」のか。

 結論から言えば、日本の自給率と他国のそれを導き出す計算式自体が異なるのである。

他国の自給率は、分子にその年の国内生産量をそのまま計上しているのに対し、日本の自給率は、国内生産量から在庫の増加量をマイナス(減少した場合はプラス)して計算しているのだ。日本の場合、前年より増えれば生産量を引くが、他国の場合は引かないということだ。
 例えば、日本はある年にコメの在庫が100万t増えたとしよう。その年の生産量が800万tだったとすると、自給率を出す際に、そこから100万t引いた700万tをもとに計算している。一方、米国では小麦の在庫がいくら増えても、そのままその年の生産量をもとにする。実際、米国の小麦の在庫は今年1000万t増えているが、それは考慮されていない。

 加えて、日本の自給率を計算する際、コメ生産量にはふるい下米や3等不合格米といった、いわゆる「くず米」の量は差し引かれる。その量は、全国で50万tから年によっては70万tにも達する。全生産量の6~7%を占め、外食用米などで“食べられている”にも関わらず自給率にカウントされない。さらには、全国各地に広がる河川敷で作られる米や農産物も含まれない。「国土交通省管轄だから」という。つまり、日本の自給率のほうが低く出るような計算式になっているのだ。

 これで、農水省がかつて筆者の取材に対して、「食料安全保障の機密上明かせない」(「インチキ食料自給率」に騙されるな!、本誌2008年10月号25頁)とし、他国の自給率の計算根拠を示せなかった理由がようやく分かった。これは完全に国民への背任である。こんないい加減な計算で、1%上がった、下がったと一喜一憂しても仕方がない。

ひどいことに、09年の自給率が1%下がって40%になった感想を記者に聞かれて、山田前農相は「生産量が、小麦の生産量が昨年減っておったのだと思ったなあ」(大臣記者会見、8月10日)と述べている。

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