記事閲覧
【農水捏造 食料自給率向上の罠】
自給率向上キャンペーン、推進企業募集予算1社あたり「76万3000円」なり!
- 農業ジャーナリスト 浅川芳裕
- 第25回 2010年10月29日
- この記事をPDFで読む
農水省は8月末、「食料自給率向上国民運動拡大対策」に今期を3億円ほど上回る来年度の概算要求を発表した。予算は13億3400万円に及ぶ。自給率政策の理解を国民に普及するための広報・宣伝予算である。
この予算は、蓮舫行政刷新担当大臣から前回の事業仕分けで、削減・廃止を求められるどころか、「(自給率向上)キャンペーンを徹底的にメディアをジャックするぐらいまでやってみては」と逆に奨励された事業だ。農水省にとっては強気の増額要求ができるわけだ。国会を通過すれば、来年は今年以上にタレントを使った自給率関連のテレビCMやイベントが勢いを増すことになる。
この予算に対する政策目標は「FOOD ACTION NIP PON(食料自給率向上国民運動)の推進パートナー数6000社(10月現在でパートナー数は3688社)」だ。いかにももっともらしい数値を掲げているが、「主旨を理解して、申請してもらえれば、食に関わる企業ならおおむね誰でもパートナーになれる」(事務局)極めてハードルの低い目標設定となっている。
予算が執行される来年4月には、今のペースで少なく見積もっても4000社を超えているだろう。つまり、来年度の増加目標は最高で2000社ということになる。13億3400万円を2000社で割れば、自給率向上を応援する企業・団体を1社増やすための予算が出る。「76万3000円也」だ。
情報操作された「国民の声」
この予算要求に呼応するかのように、10月14日、「食料自給率、9割の国民『高めるべき』、輸入への不安も8割超」との政府調査(食料の供給に関する特別世論調査)の結果が発表された。
農水省は「低い自給率に不安を感じる人は依然として増加傾向にある」とコメントしている(ただし、事実は異なる。調査結果をよく見ると、「不安がある」とする人は、前回調査から7.5%減っている。一方、「不安はない」と答えた人が5.4%増えている)。
過去を振り返っても、食料自給率向上の国策は世論操作によって作り上げられ、増幅されてきた歴史を持つ。国策化される前の1997年、食料・農業・農村基本法の策定の過程で、自給率を政策目標に上げるべきとする根拠は、「国内自給を高めるべきと考える国民が8割以上いる」との世論調査(96年実施)の結果だった。「政府は国民の食生活に介入してコントロールできない」、「自給率は農業生産力の客観的指標になりえない」との反対意見も根強くあったが、“国民の声”を盾に押し切った。
農水省は今でも、自給率向上のメリットを問えば「国民の安心度が高まると考えられる」とのオウム返しである。これをマッチポンプという。あらかじめ、「低い自給率」、「不安感が高まる」という問題を設定し、自ずと「高めるべき」、「不安」と答えざるを得ない世論調査を実施する。その声を反映したとする政策をつくり、反論があれば、「我々が考えたのではなく国民の声ですから」と正当化できる。
会員の方はここからログイン
浅川芳裕 アサカワヨシヒロ
農業ジャーナリスト
1974年山口県生まれ。1995年、エジプト・カイロ大学文学部東洋言語学科セム語専科中退。アラビア語通訳、Sony Gulf(ドバイ)、Sony Maroc(カサブランカ)勤務を経て、2000年、農業技術通信社に入社。元・SOGULマーケット専門官。元月刊『農業経営者』副編集長。現在ジャガイモ専門誌『ポテカル』編集長。2010年2月に講談社より発行された著書『日本は世界5位の農業大国-大嘘だらけの食料自給率-』がベストセラーになる。最新刊に『TPPで日本は世界1位の農業大国になる ついに始まる大躍進の時代』(KKベストセラーズ)がある。
農水捏造 食料自給率向上の罠
ランキング
WHAT'S NEW
- 有料会員申し込み受付終了のお知らせ
- (2024/03/05)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2023/07/26)
- 年末年始休業のお知らせ
- (2022/12/23)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2022/07/28)
- 夏期休業期間のお知らせ
- (2021/08/10)