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農水捏造 食料自給率向上の罠

自給率向上キャンペーン、推進企業募集予算1社あたり「76万3000円」なり!

事業仕分け後初めての、来年度の概算要求が発表された。「食料自給率向上国民運動拡大対策」は強気の増額要求だ。これは農水省が、政府世論調査の結果から「国民の声」を作り上げてのことである。しかし、国内には浸透しても、動き始めたFTAやTPPの交渉相手国には通用しない。

 農水省は8月末、「食料自給率向上国民運動拡大対策」に今期を3億円ほど上回る来年度の概算要求を発表した。予算は13億3400万円に及ぶ。自給率政策の理解を国民に普及するための広報・宣伝予算である。

 この予算は、蓮舫行政刷新担当大臣から前回の事業仕分けで、削減・廃止を求められるどころか、「(自給率向上)キャンペーンを徹底的にメディアをジャックするぐらいまでやってみては」と逆に奨励された事業だ。農水省にとっては強気の増額要求ができるわけだ。国会を通過すれば、来年は今年以上にタレントを使った自給率関連のテレビCMやイベントが勢いを増すことになる。

 この予算に対する政策目標は「FOOD ACTION NIP PON(食料自給率向上国民運動)の推進パートナー数6000社(10月現在でパートナー数は3688社)」だ。いかにももっともらしい数値を掲げているが、「主旨を理解して、申請してもらえれば、食に関わる企業ならおおむね誰でもパートナーになれる」(事務局)極めてハードルの低い目標設定となっている。

 予算が執行される来年4月には、今のペースで少なく見積もっても4000社を超えているだろう。つまり、来年度の増加目標は最高で2000社ということになる。13億3400万円を2000社で割れば、自給率向上を応援する企業・団体を1社増やすための予算が出る。「76万3000円也」だ。


情報操作された「国民の声」

 この予算要求に呼応するかのように、10月14日、「食料自給率、9割の国民『高めるべき』、輸入への不安も8割超」との政府調査(食料の供給に関する特別世論調査)の結果が発表された。

 農水省は「低い自給率に不安を感じる人は依然として増加傾向にある」とコメントしている(ただし、事実は異なる。調査結果をよく見ると、「不安がある」とする人は、前回調査から7.5%減っている。一方、「不安はない」と答えた人が5.4%増えている)。

 過去を振り返っても、食料自給率向上の国策は世論操作によって作り上げられ、増幅されてきた歴史を持つ。国策化される前の1997年、食料・農業・農村基本法の策定の過程で、自給率を政策目標に上げるべきとする根拠は、「国内自給を高めるべきと考える国民が8割以上いる」との世論調査(96年実施)の結果だった。「政府は国民の食生活に介入してコントロールできない」、「自給率は農業生産力の客観的指標になりえない」との反対意見も根強くあったが、“国民の声”を盾に押し切った。

 農水省は今でも、自給率向上のメリットを問えば「国民の安心度が高まると考えられる」とのオウム返しである。これをマッチポンプという。あらかじめ、「低い自給率」、「不安感が高まる」という問題を設定し、自ずと「高めるべき」、「不安」と答えざるを得ない世論調査を実施する。その声を反映したとする政策をつくり、反論があれば、「我々が考えたのではなく国民の声ですから」と正当化できる。

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