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新・農業経営者ルポ

6代目の理想郷



 『ル・レクチェの食べ頃』と題された金子手作りのチラシには、こう記されている。《若人→青色、目標のある方→黄色、余暇を楽しむ方→茶色(首の所腐れ始め)》。世代別の食べ頃を、金子独特の洒落で伝えようとしたものだった。

 金子が女性にたとえて言った。

 「きれいなおデブちゃんになったときが最初の食べ頃だよ」


温泉水にライ麦緑肥 ユニークな栽培法で食味を追求

 一時中座した金子が手にしてきたのは、見事な色合いをもったブドウの房だった。透き通るような淡緑の実がロザリオ・ビアンコ、少し紫味を帯びた鮮紅色の実がロザリオ・ロッソである。とくにビアンコの人気は高く、市場でも高値で取引されている。東京のある有名店では、同じものが8000円前後で販売されていたそうだ。

 「しゃべってるばかりじゃなくて、まぁ、試食してみてよ」

 促されるままにビアンコをひと粒頬張ると、上品な甘さが咥内に広がった。「あれ? このブドウってこんなに甘かったかな……」。

 思わず口をついて出た感想に、金子は煙を吐き出しながら目じりを緩ませた。

 「だろ? でも巨峰みたいに“甘~い”っていう感じじゃなくて、淡白な甘さなんだよね。あっさり系なんだけども、口の中にスーッと甘さが残るんだ。これを太陽に照らせると、種が透けて見えるんだよ。なにしろ糖度が23~24度はあるからね。もうここまできたらブドウを超えてるよ。甘すぎ。でもこれは、農家じゃないと完熟させられないんだな。出荷もできないんだから」

 数日前に開催した毎年恒例の「収穫祭」で振る舞われたものだという。出荷される通常のビアンコの糖度が18度というから、筆者の味覚は間違っていなかった。「フルーツ」というよりも「デザート」である。

 ブドウ栽培は金子の父親、すなわち5代目から始めるようになった。半世紀以上にわたって実験と研究を重ね、現在ではシャイン・マスカット、ブラックピート、ゴルビー、マニキュアフィンガー、翠峰など、実験中の「隠しブドウ」も含めれば、15品種以上にものぼる。先ほど舌鼓を打った甘すぎるロザリオ・ビアンコは、金子の代になってから手がけた品種で、最初の10年間は一銭の収入ももたらしてくれなかったという。だがさらに興味深いのは、「金子オリジナル」ともいうべき彼の栽培法だった。

塩素を抜いたアルカリイオン水で育て、そこに群馬県から入手した温泉水も加える。緑肥として使うのはライ麦である。自然農法にこだわる金子が、現時点で出した回答がこの方法だった。それにしても、どのような理由で手繰り寄せた回答なのか。金子が種明かしをする。

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