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「果物の根っこを人間に例えれば、足でしょ。足が弱くなると、いろんな病気に罹るよな。果物だっておんなじだ。上ばっかり手をかけてると、バランスが崩れるんだ。ライ麦を緑肥に選んだのは、根っこが深く下がるからだよ。それを6月ぐらいに刈り取って枯らせちゃえば、地下深くに空気が入る。耕うんしなくても酸素の供給を良くすれば、地下の毛細根も活発になるだろうと。オレは科学者じゃねぇからわかんねぇけども、ようするにそういうことだよ」
群馬県の温泉水を使い始めたのは今シーズンからだ。日本中を移動しているアオバトという鳥が、わざわざこの温泉の水を飲みにくるという話を聞き、この温泉にはミネラルが豊富に含まれているのではないかと察したのだ。さらに、たまたま金子と一緒に入浴した人物が、この湯に浸かっただけでウィルス感染症が完治したのだという。そのうえ「ガンにも効く」という話を耳にし、「そんなに身体にいいならウチでも撒いちゃえ」と、可愛いわが子たちのミルク代わりにしたのだった。
「ということは、このブドウを食べればガンにも罹らないわけですか」
「うん。そういうことだよ」
嗄れた笑い声が、金子家の茶の間で再び破裂した。
農薬問題がきっかけで気付いた“自分の商品は自分で売る”
古希を過ぎてもなお挑もうとする金子だが、「冒険」とは「険しきを冒す」と書く。数かずの障害はあらかじめ予想されたものであり、それらを突破しなくては次の山には進めないわけだ。そんな金子を自然農法へと邁進させたのは、皮肉なことに、農協とのトラブルが大きな引き金となっていた。
10年ほど前、農薬問題が白根市で発生し、マスコミにさんざん断罪されたことがある。実は金子も当時の風潮に乗って評判となっていた農薬を購入してみたのだが、その後に考え直し、すべてを廃棄している。しかし、これが逆に彼の足を引っ張る結果となったのだった。
灰皿に煙草をひねり潰した金子が、苦い想い出を低く語り始めた。
「現物は全部焼いてなくなってるんだけど、問屋さんには購入記録が残ってるわけよ。これじゃあ、しょうがねぇわな。証拠がないんだから言い訳になんねぇ。だからオレは、農協さんに言ったんだよ。“オレが銭を出して公的機関に調べてもらうから、その結果がゼロだったら出荷させてくれ”と」
ところが農協からの返答は、頑として「NO」のひと言だったという。
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金子正 カネコマサシ
新潟白根フルーツガーデンふる里
1939年新潟県生まれ。新潟県立加茂農林高校を卒業後、長男として家業の果樹経営を受け継ぐ。1haの果樹園でナシ、洋ナシ、モモ、ブドウ、イチジクなどを栽培しており、主力のナシとブドウは、それぞれ10品種以上を作付けている。「作る側と食べる側が互いに笑顔の見える商いをすること」をモットーに、各地の小売店や消費者に直販を行なうほか、農場で収穫祭イベント等を実施して顧客との交流を図っている。20年前より化学肥料を一切使わず、農薬使用も慣行の3分の1に抑えるなど自然農法を模索しており、無農薬栽培にも挑戦中。2010年より水稲50aで合鴨農法も開始した。
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