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例えば、空知地区のある農協ではパートも含む職員1人を、組合員4人が支えている。さらに競争が激しくなって淘汰選別が進むと、職員1人を組合員2人で支えるという凄まじい姿になってくる。
仮に職員の給与・退職金やさまざまな経費を年間数百万円はかかるとすれば、その分を農家が負担することになるのだ。これでは北海道の農家は国際競争の舞台に上がることなく全員討ち死にになってしまう。
コメ農家への影響は?
質問 ところでコメはどうか。
土門 基本的な構造なり図式は同じだが、コメは独特の問題も含んでいる。何よりも零細兼業農家が多い。最近は、その兼業先収入と農業収入のどちらも激減しているという点が問題を複雑にしている。
質問 それはどういう意味か。
土門 零細兼業農家は、地域によって違いがあると思うが、東北を例にとれば、すべての年間収入は平均して500~600万円ぐらいではなかろうか。世帯主の兼業先収入、主婦のパート収入、年寄りの年金収入、それにコメ販売など農業収入が内訳だ。そのうち農業収入は、全収入の2割ぐらいではないかと思う。
高度成長時代には1割程度だったが、兼業先収入が大幅にダウンして農業収入の比率がアップしている。仮に農業収入を100万円として考えてみよう。断っておくが、これは販売収入である。
質問 つまり販売収入であって利益でないということか。
土門 その通りだ。そこから農業機械の償却、肥料や農薬など農業資材費などを差し引いたものが利益となるが、だいたいのケースで農業部門は赤字になる。
例えば1ha規模でも、トラクタ、コンバイン、田植機の3点セットで500~600万円はかかる。
これを5年で償却するとなると、年間の償却コストは100~120万円になってくる。
コメなどの販売収入が農業機械の償却分だけで吹っ飛んでしまい、赤字が残ることになる。その赤字を兼業先収入などで補ってきたのが日本の零細コメ農家だった。ところが地方経済の悪化でコメ作りの損失を補填する兼業先収入が激減しているのが現状だ。
質問 損することが分かっていて、なぜコメを作るのか。
土門 その辺が常人には理解が及ばないところだが、いくつか動機のようなものがある。
まず農村部の人間の強烈な横並び意識が根底にあるのではないか。集落に住む一員としてコメ作りを義務のように考え、それをしなければ周囲から白い眼で見られると思っている。それが嫌で損得に関係なくコメ作りに取り組んできた農家もいる。
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土門剛 ドモンタケシ
1947年大阪市生まれ。早稲田大学大学院法学研究科中退。農業や農協問題について規制緩和と国際化の視点からの論文を多数執筆している。主な著書に、『農協が倒産する日』(東洋経済新報社)、『農協大破産』(東洋経済新報社)、『よい農協―“自由化後”に生き残る戦略』(日本経済新聞社)、『コメと農協―「農業ビッグバン」が始まった』(日本経済新聞社)、『コメ開放決断の日―徹底検証 食管・農協・新政策』(日本経済新聞社)、『穀物メジャー』(共著/家の光協会)、『東京をどうする、日本をどうする』(通産省八幡和男氏と共著/講談社)、『新食糧法で日本のお米はこう変わる』(東洋経済新報社)などがある。大阪府米穀小売商業組合、「明日の米穀店を考える研究会」各委員を歴任。会員制のFAX情報誌も発行している。
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